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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十八話 日常の終わり、軍人として
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々な目にあった西田中尉も苦笑を浮かべている。
「軍だからこそ味わえる贅沢だな。あぁ、戻ってよし」
 そして戻っていく西田の後ろ姿を見て豊久は小さく笑うと本部庁舎から出迎えに来た二人へ向き直った。
「連隊長殿」
「おう御苦労、首席幕僚に副官。すまんな、俺より先に聯隊の面倒を見させてしまって」

「はい、連隊長殿。取り敢えず形は整っています。営庭に現時点での総員は揃っています」
 一足先に此方で準備を整えていた首席幕僚が僅かに微笑を浮かべて報告する。

「そして聯隊長殿に目を通していただくものも大量に」
と死地を共にしたもの特有の笑みを浮かべて米山も云った。

「有りがたくて涙がでるよ――それで、第二大隊は未だ揃っていなかったな?」

「はい、ですが今月中には定数を満たす筈です。鉄虎大隊も新編中隊以外は既に定数を満たして居ます」
 聯隊鉄虎大隊は連隊長の要望を受けて第十一大隊の生き残りを基幹に捜索剣虎兵中隊を新設している。輜重隊を削ったが故の増設であった。
「それは大いに結構」
 そう言った連隊長は口元を歪ませ――
「――さて、連隊長になるとしますかね」と愉しそうに――呟いた



 ――せめて一人でも多く生還させるとしよう。
営庭に入ると猫を伴った兵や施条銃を握った兵達が整列しているの姿は豊久にそう決意させるだけのものが有った。
 そして同時に北領でそうした感覚が麻痺していない事に安堵を覚える。死なれることに慣れる、というのは楽ではあるかもしれないが、酷く厭なものである。
「――俺の聯隊か」
 三千の大台に迫る人数の兵達が整列しているのは壮観である。
「連隊長殿にぃ、捧げ銃!!」
 駒州の精兵達が、北領の勇士達が一斉に俺に敬礼する。
「――これから世話になる。首席幕僚、将校を半刻後に本部へ集合。
米山、連隊長室へ案内してくれ。」
聯隊長として振舞う豊久は、久方ぶりの重さを感じた。



 当面の仕事部屋である、聯隊長執務室に入ると新任聯隊長は鬱々とした気分を追い払おうと一ヶ月振りの細巻に火を着けた。

「意外だな、特務曹長。龍火辺りの助教にでも落ち着けただろうに。」

 当面の書類処理用の席に腰を落ち着けて、気分転換に下士官達の代弁者となった初老の砲兵に問いかける。

「どうも、あの手の場所は水が合いませんでしてね。
どうせならろくでもない場所に行くのならば一度は一緒に帰って来られた御方について行きたいのですよ」
「おいおい、あまりプレッシャーをかけないでくれよ。その言葉は有難く受け取っておくがね」
 軍帽を玩びながらの返事に被さるように扉をノックする音が響いた。
 ――集まったか。さて、連隊長のお披露目といきますか。



同日 午前第九刻半 独立混成第十
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