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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十八話 日常の終わり、軍人として
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儘に付き合ってくれた許嫁も、何もかもが惜しいのだ――あぁ畜生め。
 
「馬堂豊久聯隊長、か。中々様になっているじゃないか」
 豊久の鬱々とした思考を遮る様に父の声が耳に入った。

「――父上」
 振り返った父の顔に浮かぶ笑みは強ばっていた。
「余計な事を考え過ぎだ馬鹿者。皇都は私達でどうにかするから安心して征け」

――まったく、散々人をからかっといて今更そんな顔で言わないでください。
豊久は瞑目すると一拍おいて豊守に笑いかけた。
「我が馬堂家の人間がそこまで武張った台詞を言うなんてらしくないですよ。
――信じていますよ、ですから今度もひょっこり帰ってきますから俺を信じて下さい」

「そう言われると弱いな」
 互いにいつも通り、ふてぶてしく、胡散臭く笑いあった
「だからお前も今度は誰も泣かせずに帰って来なさい。もう挨拶は済ませたのだろう?」

「えぇ、帰還の挨拶までにはもう少し気の利いた事を言えるようにしておきますよ。」

「そうか、多少は気持ちの整理がついたようだな。数少ない良い事、とでも思っておこうか
――さて、行って来い。武勲はともかく、客の持て成しは我々の仕事だからな、たとえそれが招かれざるごろつき共であっても、な。さぁゆけ聯隊長!山の様な面倒事とそれを片付けた途端に台無しにされる前線勤務が待っているぞ!」と豊守が背を叩く。
「はい、理事官閣下殿」
 軍帽で笑みを隠し、豊久がしばらく戻る事のない書斎から出ると柚木と宮川が無表情で立っていた。
「……いってらっしゃいませ。」
「うん、暫くこの書斎を頼む、他人を入れないでくれよ。
入れて良いのは、この屋敷の者達と新城と茜嬢だけだ。」
 ――と言っても機密関連は一緒に持っていくか父と祖父の管理下にある。まだこの世に盗聴器とかも存在しない以上別に誰が入ろうと困らないのだけれど、厭なものは厭だ。
「はい、お帰りをお待ちしています」

「ありがとう。おいおい、そんな顔をするなよ。まるで俺が自殺でもするみたいじゃないか」
 ――我ながら悪趣味な冗談だな。そう思いながら唇を歪め、肩をすくめる。
「それでは――またな」

 馬堂家上屋敷の玄関の間に至り、豊久は無意識に細巻入れを手にする。
 ――ようやっと禁煙が板についてきたのにな。
 寂しくもあり、どこか懐かしくもある感触であった。笹嶋中佐からもらったものである。

「――豊久」
 山崎と辺里を伴った馬堂家の当主が佇んでいた。
「御祖父様」
 戦地に赴く孫へ豊長は謹厳そのものといった視線を送る。
「――頼んだぞ」
 その声が、姿が、豊久を付き従わせるその全てを含んでいる。自分が産まれ、育った家を守り続けた人に敬礼をする。
「なんだ、未練がありますと顔に書いてあるぞ?」
フッ、と笑
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