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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十八話 日常の終わり、軍人として
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いものだった。
 ――どうしようもない事だ、永遠の休暇を取るつもりない故に連隊の練成を急ぐのは当然だ。
豊久が長を務める独立混成第十四聯隊は既に編成が開始されている。首席幕僚となる大辺秀高少佐は既に軍監本部から聯隊本部へと籍を移し、連隊を機能させる準備に入っていた。
「――――寝床につかない駄々っ子、か。まったく言い得て妙だよ」
あれこれもと泣き喚く子供の姿はまさしく自身のそれだ、と。婚約者の言葉を思い出して豊久は一人、自嘲の笑みを浮かべた。
半端に関わったせいか、豊久は皇都の政争に――或いはそれを名分に皇都に居る事に――未練を抱いていた。
守原はこちらの思っている以上に追い詰められているのか、それとも余裕があるのか図りかねている状況である。これは西原とは堂賀准将を通して友好的中立関係を維持しているがその本質は守原の裏で暗躍する宮野木和麿という妖怪への警戒であり、守原の暴発をおそれているからこそ、である。
安東も内部の実態把握が完全にできぬままであった。平時でならともかく、戦時において五将家の一角を――すなわり陸軍中枢の一部を担う家が内部対立を起こしている事は大きな不安要因でしかない。ただでさせ、統一された戦争指導が難しい状況でさらなる混乱を産み出しかねない。
執政府に衆民院とて玉虫のごとく彩を変えながら蠢いており、更に執政府内でも高い独自性を持っている魔導院の動きについては断片的にしか分からない。
思いつくだけの今抱えている問題点を脳内で並べ立て、豊久は再び溜息をついた。
 ――〈帝国〉という外患があるのに、銃後にこれだけ内憂を抱えているとさすがに困りものだ、の一言では済まない。御祖父様に父上が居るといっても出来れば俺も皇都に残って対応したいのだが――北領でやらかした以上、当面は前線で生きながらえる努力をしなければなるまい。

「いい加減に引っ込みたいんだけどな」
 ――大佐になるまでに生き残る事ができたら笹嶋さんから貰った名誉中佐の肩書きを利用して軍監本部か兵部省で水軍との折衝にでも回してもらえるよう、頼み込むか。
 ふ、とこれから担う部隊の事を考え自嘲の笑みを浮かべた。
 ――生きて戻れたらの話だけれどさ。何だかんだ理由をつけても自分の身が可愛いのが理由か、結局は守原英康と同じだ。
「浅ましいものじゃないか、輪廻転生の神秘を知ってなお生が惜しいか?」
鏡の向こうの己へ問いかけるも答えは分かりきっていた。
――あぁ惜しいさ、惜しいに決まっているだろう!これからどうするべきか、“確たる前例”を知り、恵まれた地位を生まれながらに与えられて人生を歩む――これほどの幸福が存在するだろうか?この<皇国>も、慈しんでくれた家族も、傍迷惑な旧友も、武張った真っ直ぐな友人たちも、砂金と汚泥が混ざり合った政界も、背負うべき馬堂の家も、我
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