第百二十二話 蘭奢待その十三
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「殿と共に進みましょう」
「最後の最後まで」
「そしてじゃ」
ここで酒井は榊原にこう言った。
「今から少し暇じゃが」
「暇ならばですか」
「鍛錬をしようぞ。どれがよいか」
「馬はどうでしょうか」
榊原は楽しげに笑って酒井に提案した。
「それは」
「馬か、よいのう」
「駆けてそうして」
そしてだというのだ。
「鍛錬としましょう」
「馬はよいのう。駆けるだけで十分な鍛錬となる」
「全くですな」
「殿もお好きじゃしな」
家康の馬術は信長のそれに引けを取らない、とにかくかなりのものだ。
「だからこそな」
「我等も馬術に励みましょうぞ」
「馬術と水練は欠かさぬ」
家康はこの二つにかなり五月蝿い、自身の子達にも家臣達にもその二つは絶対に励めと言っている程だ。
だからここで酒井も榊原の言葉に頷き言うのだ。
「この二つだけはのう」
「逃げる時は頼りになるのは己の身一つですからな」
「生きておれば何とかなる」
これが戦国の現実だ、全ては生きてこそなのだ。
「それ故に」
「馬と水ですな」
「殿はその二つに励めと仰った」
「そういうことですな。ではこれから馬を」
「共に駆けようぞ」
「何処まで駆けまするか」
「浜松の城まででどうじゃ」
彼等の敬愛する家康の城までだというのだ。
「そこまで戻るということで」
「それがいいですな、距離としても」
「そしてそこに帰れば次は」
酒井は榊原に楽しげな笑みを見せて話していく。
「槍をするか」
「それか弓ですか」
「どちらかじゃ」
剣ではない、戦の場で使えるからだ。
「それにしようぞ」
「いいですな、身体を存分に動かせば飯も美味うございます」
「強飯をたらふく食おうぞ」
「左様ですな」
二人でこうした話をしてだった、二人は浜松の城まで馬で威勢よく駆けた、そして城に戻ると槍の稽古をした。
そこでは本多忠勝と井伊がもう鍛錬をしていた、本多の槍捌きはというと。
実に見事だ、徳川家の中でも武辺で知られている井伊も彼の槍を受けて言う。
「流石は平八郎じゃな」
「といいますと」
「見事な槍じゃ」
その激しい攻めに関心している言葉だった。
「防ぐだけでも精一杯じゃ」
「左様でございますか」
「ここにきてまた腕を上げた様じゃな」
「鍛錬は欠かしておりませぬ」
「それじゃな、強いうえにさらに鍛錬を積む」
そうすればというのだ。
「だから余計に強くなるのじゃ」
「それがそれがしの槍でありますか」
「うむ」
本多は凄まじい突きを次々に繰り出す、井伊はその突きを己の槍で右に左に外しながらこう言うのである。
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