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失われし記憶、追憶の日々【ロザリオとバンパイア編】
原作開始【第一巻相当】
第十八話「修行中」
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行って来い」


「……へ?」


 今し方、投げ飛ばした木を指差すと、目を真ん丸に見開いて俺の顔と木の間で視線を往復させる。


「行ってこいって、どうやって?」


「泳いでに決まってるだろ」


「ええっ、でも水着もなにも持ってないし……」


「あーもう、いいから行ってこい!」


 ああだこうだと踏ん切りがつかない青野の首根っこを持ち上げて放り投げる。


 見事な放物線を描き、水しぶきを上げながら水の中へと落ちる。


 諦めがついたのか溜め息を一つ零した青野は大人しく泳ぎ始めた。


「――ぷはぁ……! ……うわっ、先生いつの間に!? えっ、えっ?」


「ほれ、さっさと木の上に立て。これが出来んと始められないぞ」


 青野が一生懸命泳いでいる間に俺は先回りして大木の上に起立していた。目を白黒する彼を片手で促す。


「あっ、はい……っても、これ立つのも難しいですよ……!」


 気の上に昇ろうとしては何度も転がり落ち、またはバランスを崩して水の中に戻る。形だけでも様になってきたのは十分後のことだった。


「よし、なんとか木の上に立てれたな」


「ぎ、ギリギリですけどね……うわっとっと! こ、これ、バランス保つのが……難しい……っ!」


「全身の筋肉を弛緩させて、ゆっくりと大地に根を張るように。大切なのは集中力だ。これからはこの上に立ちながら気を練ってもらう。気の練り方は大丈夫だな?」


「え、ええ……一応はできますけど……っとっと」


「気を練ったら身体に回して保てるようになれ。まずはそこからだ。よし、では気を練りながら正拳突き百回」


「は、はい……うわぁ!」


 今度は三分十五秒か。最長記録だな。


「鍛練は継続、達人は一日にならず。歩活ならざれば拳乱れ、歩快なれば拳慢なり。すべては歩き方が基本ということだ」


 水の中から鼻から上だけを覗かせる青野を見下ろし、フッと微笑む。


 トン、と軽く木を蹴り、プカプカ水面を漂う小枝に跳び乗る。


 そして、小枝だから一枚の葉っぱへ、葉っぱから葉っぱへとリズムよく跳び乗った。


「禅を学ぶ前、山はただの山であり、川はただの川だった。禅を学ぶようになると山はただの山でなくなり、川はただの川ではなくなる。しかし、悟った今、山はただの山であり、川はただの川だった」


 地上に降り立ち振り向く。呆然とした顔で俺を見つめる弟子と目があった。


「これが分かれば、君は一回りも二回りも大きく成長しているよ」


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