第19話 有希の初陣
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彼女。
これは――――。
「距離は近いな」
俺が、やや意味不明の問い掛けを有希に対して行う。
その問いに対して、無言で首肯く有希。その表情は普段通り。
但し、僅かな緊張と、そして、先ほど彼女から感じる事が出来た決意にも似た何かを再び、感じる事が出来た。
それならば、
「有希、持ち上げるで」
俺の問い掛けに、少し意味不明と言う気を発する有希。
しかし、それも一瞬の事。そのすぐ後に、俺の事を信用したのか、それとも、それ以外の理由かは判りませんが微かに首肯く有希。
その仕草を瞳に納めた後、彼女を抱き寄せ――――――。
正に、跳ぶような勢いで、戦いの気が発せられた個所へと向かったのでした。
☆★☆★☆
紅い弓の如き三日月と、蒼き満月が支配する世界に、まるで墓標の如き寡黙さで立ち並ぶ家、家、家。
しかし、既に異界化した世界ではそれもまた真実。立ち並ぶ建物すべてが、妙に現実感の薄い……。まるで、テレビの向こう側に映る映像を見ているような。いや、分厚いガラスと冷たい海水の向こう側を覗き込む水族館の中の景色を見ているような。そこは、そのような気さえして来る世界で有ったのだ。
空に浮かぶ二人の女神。そして、頭上を覆う闇色の天蓋はそのままに、家屋も、樹木も、そして、道路標識さえも。そのすべてが、現実とは少し位相をずらした存在と成り、
そして、俺と有希以外に動くモノが一切存在しない空間へと移り変わっていた。
そう、これは単純に動く者や、動く物が見えていない、と言う訳では無い。正に、写真の中の風景。街路樹の葉が、氷空に浮かぶ雲が、そして、風すらも動かない。
此の世とは違う理が支配する、あちら側の世界。
その、無と静寂が支配する…………。
……………………。
………………。
いや、違う。其処には確かに、動くモノが存在していた。
有希を抱き上げ、異界化した空間に突入した瞬間に襲い掛かって来る何モノか。
自在に宙を舞い、在らぬ角度から、遙か頭上から、地を這うように、大地を走る俺に目がけて殺到するおぞましき髑髏の群れ。
しかし! そう、しかし!
上空から急降下気味に接近して俺達を襲おうとしたその髑髏の群れの目前に、突如、発生した目に見えない何かに因って阻まれて仕舞う異世界の生命体の攻撃。
そう、それは正しく不可視の壁。おそらく防御用の結界術の類。……ただ、魔法回路が宙に浮かばなかった以上、これは俺が施した神明帰鏡符に因る反射ではなく、俺の腕の中に存在する少女の能力に因る物。
しかし、その不可視の壁に攻撃を完全に阻止された瞬間、表情を持たないはずの髑髏と、俺の視線を合わさった。
その瞬間
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