暁 〜小説投稿サイト〜
ヴァレンタインから一週間
第19話 有希の初陣
[1/10]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 月齢にして四以下。見た目からすると、三日月ドコロか氷空(そら)に浮かぶ紅い弓、……と言うべき紅き月(つき)と、満面の笑みを地上へと放つ蒼き月。
 煌々と。ただ、煌々と闇色に染まった地上を照らす。

 いや、違うな。重力()の底から遙か頭上を仰ぎ視ながら、俺はこう感じたのだ。
 そう。あの蒼い月は、まるでこの俺が暮らして居る地球その物の姿のようだと。

 あの、俺にしか……。いや、おそらく、能力者にしか見えていないあの幻の月の正体は、もしかすると、位相をずらした異世界の地球の姿を……。

 其処まで考えを纏め掛けた俺と、俺の右横に立つ人工生命体の少女の二人を、この季節の夜に相応しい冷気を伴った風が吹き付ける。その冷たい風(かぜ)がすっかり冬枯れの状態と成った数本の広葉樹を凍えさせ、そして、現在の時間帯故に、誰も乗って揺らす事のないブランコを微かに振るわせた。
 そう。ここは西宮市内に有る、とある児童公園の入り口。

 其処から、公園の中心に存在する街灯の明かりが支配する地点まで進んだ後、少し顧みて共に歩みを進めて来た少女の姿を自らの瞳に映した。

 但し、この作業は別に必要だから行った訳などではなく、紅と蒼。二人の女神()が放つ自然の光と、街灯が造り上げた人工的な青白い光が造り出した世界の中心で立ち尽くす少女。その彼女が発する独特のペシミズムと言うべき物が、真冬の夜の静寂(しじま)の中で、一種、独特の世界を構築しているようで……。
 ただ、その姿を自らの瞳に宿して置きたかっただけ、なのですが。

 珍しく、俺の方から彼女を見つめて居る事に気付いた有希が、真っ直ぐに、俺の瞳を覗き返して来た。彼女が発して居るのは、少しの疑問。
 確かに、意味もなく彼女を見つめた事は、あまり有りませんか。

「有希、寒くはないか?」

 少し、取って付けたような雰囲気と成ったのですが、照れ隠しと、そして、同時に確認の意味も込めて、そう問い掛けてみる俺。
 その俺の問いに対して、首をゆっくりと二度横に振り、否定の答えと為す有希。
 そして、

「問題ない」

 ……と、短く簡潔に答えた。
 尚、当然のように、彼女と俺自身に関しては、現在、紅玉に封じられ、起動状態と成って居る炎の精霊サラマンダーの術の効果範囲内に存在して居るはずですから、冬の寒さからは完全に守られているはずなのですがね。

 有希の答えに、ワザとらしく首肯いて答える俺。まして、彼女と世界の有様を俺の記憶に残す作業は既に完了しています。
 それならば、

「次は、この公園の中に配置されている結界材に、俺の霊気を籠めて待機状態にするから、やり方を見て置いてくれるか?」

 ……と問い掛けた。
 尚、元々、その目的で、夜の西宮の街を歩ん
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ