暁 〜小説投稿サイト〜
魔王の友を持つ魔王
§32 観光旅行と逃亡劇
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を今の黎斗では完全に出せない。

「こっちか!?」

 足音が近づいてくる。もう余裕は無い。

「対象の人数が増えすぎなんだよ。……しゃーない、やってみるか」

 影から糸を取り出す。こちらは身体強化と違って見てわかる行動ではない。流浪の守護の影響下でも大丈夫なはずだ。

「市販の糸だけど買っててよかったわ。不良に媛さんの特注品は勿体ない」

「見つけたぞー!!」

 不良がゾロゾロと現れる。増えに増えたその数は一クラス分くらいいるのではないだろうか?

「糸、足りるかなぁ……」





 時刻が若干、前後する。

「ここ、ですね」

 明らかに、この建物だけ違う。他を隔絶する実力を誇る彼女ですら注意深く観察せねば気付かない程に隠しているが、詰めが甘い。

「一度敷地内に侵入してしまえば異常性がありありとわかりますね」

 邪悪な類は入ってくるだけで即浄化されてしまいかねない、圧倒的な清浄さ(・・・)。そしてこの建物で一番特異な所、そこに「彼」がいる筈だ。

「正面から突破してこそ、ですね」

 そう呟いた彼女がインターホンを鳴らす。

「留守、ですか。私の襲撃を見抜くとは流石というべきですね。……私が来た証でも残しておきますか」

 人差し指をドアにちょん、とついたところで。

「あーあ、黎斗の奴留守にしやがって。公欠取れるような活動なんかしてたか?」

「俺は知らないぞ。それよりも黎斗と草薙護堂はクズ野郎だ審議会をいつ開くかについ……」

「どうした反ま……」

 硬直した二人。と後ろから来るもう一人。

「二人ともどう……」

「……」

 しばし見つめあう三人と一人。

「美しいお姉さん、そこでお茶でもどうでしょう?」

 一番最初に硬直した反町が一番早く我に帰った。何故ここに、とか誰だろう、といった疑問は因果地平の彼方へ投げ捨て、神速をも超える速度で彼女に迫りアプローチを開始する。

「「反町てめぇ!?」」

「な、なんですかお前たちは……」

 無礼者、と一括するのは簡単だ。だが「彼」の屋敷の前でそれは拙い。今の自分は挑戦者。礼を尽くす側の存在なのだ。彼女には彼女の矜持がある。その矜持が、更に事態を悪化させる。

「黎斗に用事ですか? 奴はしばらく旅行に出ていていませんよ。言伝なら俺が預かります。そこでじっくり話しましょう」

 キラリ、と光る歯を見せて、教主の手を取る高木。彼女の背筋に鳥肌が走る。

「ぶ、無礼者!!」

 予期せぬ事態に思わずどもってしまい、結果としてそれは火に油を注ぐ形になる。

「ぐはっ。ご褒美ですありがとうございます!!」

「ひぃい!?」

 鼻血を出して倒れる男。
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