反転した世界にて6
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り出して、神に祈るかのような清廉とした動作で、手を合わせる。
「い、いただきます」
「え、いま食べるの?」
早弁どころか、朝ごはんの時間なのだけど。
しかし止める間も僕の問いかけに応えてくれる余地もなく、白上さんはそっとロールキャベツを箸で切り分けて、一口。
「――」
「……え、えっと。嫌いなものとか聞いてなかったから。もし入ってたりしたら、その、ごめん」
数瞬、白上さんはフリーズしたかのように一切の動きを止める。
もしや、口に合わなかったのではないか。――と、件並な不安が鎌首をもたげたりしたのだけど。
「ぐ……うぅ、ぐす、美味しい」
「お、大袈裟だよ」
次の瞬間、比喩ではなく涙ながらにお弁当を食べていく白上さん。
まさか泣かれてしまうとは思ってもみなかった。
まあ、なんだかんだ言って、自分で作った料理をおいしそうに食べてもらえるのは気分がいい。でも、出来れば泣きながらじゃなくて普通に味わってほしいなと。
一口一口に感謝をこめながら、ゆっくりと味わうようにして食べていたら、HR前の時間なんてすぐに終わってしまうと思うのだけど。
……それに。
『……ざわ……ざわ』
『アレは……一体……どういう……』
『事件ですよ……これは……』
『人類は……』
『滅亡……』
『なんだって……』
そろそろ、周囲からの視線がのっぴきならない密度になっている気がする。白上さんはこの空気、気にならないのだろうか……。
さもありなん。『朝、登校してみたら、クラスメイトの女子が泣きながらお弁当を頬張ってる』って。ちょっとした事件といっても差し支えないだろう。
予鈴までは、あと五分ほどか。お弁当の中身は、まだ七割くらい残っている様子。このまま放っておいたら、先生がHRを始めても気にせず食べ続けそうな気がする。
「あ、あの、白上さん?」
「ンッ……?」
流石に涙は止まっているようだけど、しかし必死そうな表情はそのままだ。
もっきゅもっきゅと、頬を森の小動物のようにパンパンに膨らませて、弁当箱と口への往復作業を一切休めることなく、白上さんは顔だけをこちらに向ける。
昨日も思ったことではあるけれど、これはこれでクるというか、癒されるというか、俗にいういわゆる"萌え"を感じたりしないでもなかったけれど。今はそんな白上さんを鑑賞している暇はない。
「そろそろHR始まるからさ、残りはお昼にでも――」
「……ッ、……ッ!」
咀嚼を止めることなく、顔とポニテをぶんぶんと横に振って、遺憾の意を示す白上さん。
子供かよと。そんな幼な可愛い白上さんも有りかなとは思うけれど、この状況はいただけない。
「もう放っとけばいいんじゃないかな。こりゃ、梃子でも動きそう
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