反転した世界にて6
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上さんに声をかけてみることにした。
「あの。白神さん」
「え……――ほぁっ!? お、おはよっ、赤沢さんっ」
「あ、うん。おはよう」
ほぁっ?
その単語の意味するところが気にならなかったと言えば嘘になるけれど。
いま重要なのはそこではなく、如何にして、カバンの中で揺られている弁当箱を、白上さんに明け渡すか。
白上さんの表情を盗み見る――真っ直ぐになんてとてもじゃないけど見られない。眩しすぎて。
「きょ、今日もいい天気、ね。あ、雨が降らなくてよかったわ」
「? う、うん。僕もそう思う」
「あはは」
「えへへ」
何の話をしているんだっていう。
白上さんの方も、僕と同じくらい、何を話せばいいのかわからない様子だ。
時間が経てば、ボロが出る。ファーストコンタクトには成功したのだから、さっさとブツを明け渡して、この場を離れるべきだ。地味に、クラスメイト達の視線も厳しくなってきたところだし。
「これ、お弁当だけど」
なんだ、なんだこれ。
すごく恥ずかしいな。
客観的に状況を表すならば――美人の同級生のためにお弁当をこさえてきた、ブサイク男子の図。コミュ症じゃなくても意味がわからない。
「……――」
「し、白神さん?」
花柄(僕の趣味ではないのだけど、なぜか家にこれしかなかった)の弁当包みに包まれたそれを、まじまじと見開いた瞳で眺める白上さん。
一……いや、二呼吸分くらい、時が止まったようにすら感じた。
「――、……ゆ」
「湯?」
「夢にまで見た、男の子の手作りお弁当が……」
比喩ではなく、震える手で。白上さんはお弁当箱を受け取ると、ゆっくりと机の上に置いた。
そして恐る恐る、細い指先を小刻みに揺れ動かしながら、これまたゆったりとした仕草で弁当包みを解いていく。
「え、いま開けるの?」
僕の純粋な疑問は、白神さんの耳には届かなかったようだ。
何も言わずに立ち去るというのも、なんだか感じが悪いので、僕は白上さんが弁当箱を開封するまでの仕草を黙って見ていることにする。
「――っ」
「……(ドキドキ)」
なんとなく、緊張してしまう。
今日は、出し巻き卵に豚の生姜焼きと、ロールキャベツ。
豚の生姜焼きは、昨夜の残り物ではなくて朝、一から炒めなおしたものだ。冷凍食品の類もなし。僕が最も自信を持って提供することのできるお弁当であると言える。
ちょっとだけ、というかかなり。朝、いつもよりも早く起きてしまうくらいには、気合を入れて作ったのだ。もしも嫌な顔をされたりしたら、二重の意味で立ち直れない。
僕のそんな不安は、しかし無用の長物であったようで。
白上さんは真顔で無言のまま、おもむろに箸入れから音もなくお箸を取
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