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レンズ越しのセイレーン
Report
Report8-2 ディオニシオス/スプリンター
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はっきりさせてくれないんじゃ、見極められるなんて言語道断。じゃない?」

 ユティの着地先は、海際の落下防止柵の上。少しでもバランスを崩せば海に真っ逆さまだ。

 ふいにガイアスの中で、今日のさまざまな出来事が繋がり始める。
 点と点を繋げる線が描き出した答えは、単純明快。思わず笑んでいた。

「ユースティア・レイシィ」

 呼びかける。ユティはじっとガイアスを見下ろした。それでいい。括目しろ。

「――俺はお前が世界をどう扱うか知ることを望んでいる。何故なら、俺はリーゼ・マクシアの民を守る王であり、エレンピオスの民に親しんだ一人の男だからだ。ガイアスは義務として、アーストは切情として。世界を壊す力を持つお前がどんな人間かを知りたい。これが俺の答え、俺という人間だ」

 ユティは答えなかった。代わりに、無造作に柵の上から跳んだ。
 ガイアスは彼女の着地予測地点まで行って、落ちてきたユティをキャッチした。少女は抵抗しない。

「捕まえた」

 鬼の決め口上。これでゲームセットだ。
 腕の中の蝶はガイアスを仰ぎ、幽かな笑みを浮かべた。

 かつてルドガーは「ずいぶんと上から目線だな」と答えた。あれはユティの主張と変わらない。ルドガーにとってのガイアスはあの日が初対面の無関係な男であり、そんな輩に自身の仕事をすぐ見せる気にならないのは道理だった。

 ユティを見極める、と言ったガイアスをこそ、ユティはゲームを通して見極めようとしていた。同じ骸殻能力者でもなく、同じエレンピオス人でもないガイアスに、自分の秘密を曝け出してもいいと思えるかを。



「アースト!!」
「アーさん!!」
「アーストさん!!」

 商業区に戻ると、マシーナリーズのメンバー、他にも聞き込みをした街の老若男女がガイアスのもとにわっと押し寄せた。

「いいオトナが真っ昼間から何やってんだよ。事情があんのかと思って黙って手伝ったけど、今度理由きっちり聞かせてもらうからな」

 ターネットの抗議を皮切りに、集まった人々がわっと口々に言いながら詰め寄ってきた。謁見慣れしているガイアスだが、この人数を一度に、しかも市井の一般人として相手にした経験はなく、軽く怯んだ。

 同時に腑に落ちた。ユティがガイアスに――アースト・アウトウェイに示してほしかったのはこれだったのだ、と。
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