暁 〜小説投稿サイト〜
レンズ越しのセイレーン
Report
Report8-2 ディオニシオス/スプリンター
[1/4]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話

 ユティはミュゼのスタートの発砲騒動の間にスタートダッシュを切っていたらしい。スタート地点から軽く足を延ばしたが、ガイアスもミュゼもユティを発見できなかった。

 よってガイアスは目視による彼女の追跡を早々に断念した。
 ガイアスはトリグラフで誼を得た住人を訪ね歩いた。
 ターネットらマシーナリーズが屯する宿。商業区に立ち並ぶ道具屋や武器屋の店主。チャージブル大通りで行商する露店の販売員。またはそこに立ち寄る商人やサラリーマン(飲み友達ともいう)。

「いいんですか、ガイアス。聞き込みなんかして」
「街の人間に協力を仰ぐな、とは言われていないからな」

 幸いにして、ガイアスの手元には、先日のサマンガン樹界観光で撮った記念写真があった。これにはユティも写っている。賭けをしていると言っただけで皆、快く情報を提供してくれた。

「何だよ、アーさん。その子探してんの? いいぜ、見かけたら知らせるよ」

「ああ、その子。いつもウチのパン買ってってくれるんだよ。アーストさんと同じクリームチョココロネ。見かけたら声かけとくね」

「アーストさんが人探し? へえ、アンタも隅に置けないねえ。そんな別嬪さん連れといて。まあいいさ。見たら教えればいいのよね」

 そして彼らの目撃情報が集まるのをガイアスは待った。ユティは制限時間を設けていないからこうして戦略を練る時間を取ってもよかろう。もっともガイアスは、矜持に懸けて今日中にはユティを捕まえる心算だが。

 太陽が中天を過ぎる頃、ガイアスの下には街の住人から情報が寄せられ始めた。

『もしもし、アーストさん? いたよ、あんたの言ってた女の子。今? ロド団地の公園だけど』

 駆けつける。果たしてユティはそこにいた。公園のブランコに乗っていた少女は、ガイアスを認めるや、ブランコの速度を上げて高く飛び出した。
 高所からの奇襲は彼女が無意識に多く用いる戦術だ。承知していたミュゼが飛翔して軌道上に立ち塞がる。だがユティはミュゼの左肩を右手で掴んで後ろへ押し出し、すれ違う際のズレを利用して躱してみせた。
 着地したユティは団地から走り去った。ガイアスはすぐさま後を追う。

『もしもし、アーストさん? 探してるって言ってた女の子だけど、さっきすごいスピードでウチの店の前走ってったよ』

 駆けつける。チャージブル大通りの分かれ道。少女はクランスピア社ビル側か駅側かどちらに曲がるか決めかねているようだった。
 絶好のチャンス。瞬息で距離を詰める。ユティは気づいた。ユティは駅側への道を選び、街路樹の後ろに隠れた。ガイアスは内心舌打ちした。捕まえようとしてもユティは街路樹を間に挟んで反対側に避ける。
 そうしてガイアスを焦れさせた上で、彼女は駅へと駆け去った。

『アーさん
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ