Episode 3 デリバリー始めました
スイートは爆発だ!
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北京ダックといえば高級中華料理の一つであり、おそらくよほどの子供でもなければ知らない人間のほうが少ないだろう。
だが、その材料は何か? と聞かれたら、おそらく家鴨以外が出てくる人間は稀だ。
そしてその作り方を知っているか? と言われれば、答えられる人間はさらに少なくなるだろう。
だが、意外な事に……熟練こそ必要ではあるが、基本的にそこまで複雑な料理ではない。
用意するのは、家鴨と『皮水』と呼ばれるお湯で延ばした水飴、あとは鴨醤と呼ばれるタレと、鴨餅や荷葉餅と呼ばれるクレープ生地だけだ。
もっとも、作り方は一般のご家庭で気軽にお試しいただけるような内容ではないが。
さて、ここで一つ問題がある。
「まず、アヒルがこの魔界には存在しないんだよね」
必要な材料を羊皮紙にまとめながら、ペンの尻を唇の下に当てて、キシリアはボソリと呟いた。
絶界"モルクヴェルデン"において地球で作っていた料理を再現するには、まず代用の食材を用意しなければならない。
ただ、なぜか探せばほぼ同じ食材があったり、形は違っても味や匂いが同じ食材が存在しており、結果的には元の地球よりも食材の種類が豊富だったりもするからこの世界は不思議に満ちている。
おそらく人類という猛悪な"捕食者"が存在しないために、生態系が破壊されていないのが原因ではないかとというのがキリシアの見解だ。
そもそも……絶界"モルクヴェルデン"の捕食者が消費仕切れなかった生物が溢れかえり、その結果、偶然空いた次元の穴から他所の世界に漏れた……というのが人間世界との確執の始まりだというのだから、キシリアの考察はほぼ間違っていないだろう。
そして今回キシリアが求めた素材は、テンチャーと呼ばれる鳥。
以前味見をした時、ほぼ家鴨の肉と区別が出来ない味であったために今回の食材として選ばれた生き物である。
めったに市場に出回らない食材であるため、今回はポメに狩りを命じたのだが……
「ふぅん、テンチャーだニャ? 了解だニャ! このリージェン3兄弟の次兄であるポメ様に任せておけば楽勝だニャ!!」
いつもどおり意味もなく自身満々なポメに、キシリアはどうしても拭いきれない不安を感じる。
「ちなみにテンチャーという生き物については知っているのか?」
眉間に微かに皺を寄せながらキシリアが尋ねると、彼はクリクリとした目を大きく見開いて首をかしげた後、「知らんニャー」と一言呟いた。
こんな場面でなければ今すぐ撫で回したいほど愛くるしい姿なのだが、今はただ落胆と嫌な予感しか感じられない。
「そっか……逝ってらっしゃい」
――ダメだったらあとで
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