家出姫
正妻戦争
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盗賊のアジトの洞窟では二人の女の子が夥(おびただ)しい量の魔力をチャージしている。そのせいか空間が少し歪んで見える。
「Donner・Magier!Gott・Donner(神雷)!」
「Licht・Magier!Light−Beweis(光爆)!」
両掌から放たれる金色の雷と杖の先から放たれる白銀の光の一条。
それが交わったとき洞窟の入り口から煙が立ち上り、光が輝いたという。
洞窟の中は昼のそれより明るく、いやそれ以上に形容しがたいまぶしさだった。魔法を放った両者はそれぞれ顔を覆い膨大な光に耐える。
ようやく光が収まったとき爆心地に影が見えた。
「ううぅ……。」
煙から出てきたのはボロボロになりながらも両手をセリナとエリザに向け、さらに掌から透明な膜を出しているカズヤであった。
「ウソ……。」
「どうして……。」
ゆらりゆらりと揺れついにはカズヤは前のめりに倒れてしまった。
「カ、カズヤ!」
「カズヤ様!」
それに駆け寄ってセリナが彼の上体を起こし肩をたたく。
エリザも駆け寄り傍らで心配そうに彼を見つめる。
「何してるのよ、早く!光魔法なら回復術も使えるでしょ!」
「わ、分かりましたわ。」
エリザが回復術の詠唱をしている間セリナは背嚢から手拭いと水の入った水筒を出し、手拭いを濡らしてカズヤの顔を拭く。
エリザが詠唱を終えると途端にカズヤの身体が光に包まれ表面の傷が癒されていく。
「ううん…。」
「大丈夫ですか?」
「うん、まあ。」
「なんで……。」
「ん?」
「なんで割り込んだの?」
どさくさに紛れてカズヤに膝枕をするセリナ。そして彼女をしっかりと見るカズヤ。それでもって蚊帳の外なエリザ。
「どうして、か……。なんでだろうな。」
「理由があったのではないのですか?」
「理由…。オレは二人が魔法を撃ち合っていたのを見てそれを止めようとして。」
「それ、だけ?」
「かな。二人に争ってほしくないし、かわいい女の子が怪我するのも見たくないし。」
この状況でありながら二人は頬を真っ赤に染めエリザは俯き、セリナは明後日の方向を向く。
「な、何言ってんのよ。バカ……。」
「そ、そうですよ。こんなことは教会で言ってくださいまし……。」
「ははっ、ああ…、眠くなってきた。すこし休ませて欲しいな。」
瞼が落ち上下していた肩が動きを止めた。
「カズヤ……!」
「カズヤ様……!」
エリザも彼のそばに崩れ、力なく横たえられた手をつかむ。その眼にはうっすらを光るものがあったという。
膝枕をしている彼女も動揺を隠せない。手拭いを掴む腕が震えている。
「こんなの、あんまりだよ……。」
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