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少女1人>リリカルマジカル
第二十八話 少年期J
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ら無理はしなくていいと言われたが、今やりたいからとやんわり断った。そして段ボールの中に折りたたんだ洋服を詰めていく作業にまた戻る。

 実は俺、梱包作業がかなりのレベルになっているだろうと自負している。詰め込みの手つきもだいぶ速くなった。書籍とかかさばる物は小さいダンボールに入れるようにして、食器などの割れ物はプチプチで遊びながら万遍なく包む。今生では引っ越しの回数も多かったため、何回もやったしな。特技にしてもいいかもしれない。


「むー。そういえば、お兄ちゃんっていつも格闘スポーツとかは見ないよね」
「え、見てはいるぞ」
「うーん、見てるけど。こう今みたいに激しく戦っているときとかは、いつも目を逸らしているから」
「にゃう」

 アリシアの言葉に気づかれていたのか、と俺は内心焦る。リニスも妹の言葉に肯定し、こちらを観察するように見ていた。確かに俺は意図してそういう場面を見ないようにしていたが、やはり不自然だったのだろうか。

 激しく競い合う選手たち。その攻防はとても勉強になるし、俺だって男なのだから戦う姿ってかっこいいと思う。殴り合いは好きではないが、相手を倒すことが目的の競技なのだからと、ある程度は俺も割り切れる。それに魔法のおかげで流血沙汰にもならないし、スポーツマンシップも則っていた。お互いに真剣に高みを目指している気持ちも伝わってくる。

 だけど、やはり現実はきつかったのだ。原作ではそこまで気にしなかった、流せていた要素だったが……これが現実になった時、初めて戦闘を見た時の衝撃は今でも俺は思い出せる。

 荒々しく、壮烈な戦い。誰もが魅入られる接戦の中、俺だけは異端だった。観客の老若男女も、厳格に判定する男性審判も、コーチやセコンドも、家族さえも、誰も気にしない常識。だけど、俺はそれを許容できなかった。だから、熱戦を繰り広げる選手たちと観客に背を向け、顔の下半分を手で押さえながら洗面所に駆け込むしかなかった。


 それが今から半年も前の出来事。家でテレビを見ていて、たまたま家族の誰も近くにいなかったから事なきを得たが、もし見られていたらと思うと居た堪れない。文化の違い。あまり意識していなかったものを、あの時俺はようやく認識したのだ。

 今はなんとか耐性もついてきたが、まだミッドチルダの人たちほど強靭な精神力は俺にはない。これが長年に渡り、形成された文化なのか……と諦め気味に納得している。たぶんこの文化に俺が慣れた時、俺は真の意味でミッドチルダ人になれる。そんな気がした。

「……ごめん、でもやっぱりまだ心の準備ができていないんだ」

 俺は2人に今度こそ背を向け、というか画面を見ないように無心になって梱包作業を続けた。アリシアはそんな俺の様子に不思議そうに首をかしげながら、またテレビの画面
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