第三章
信じてはもらえないかもしれないが彼はクッキーが作れる。
[1/10]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
俺が普段、読書しかしていない家庭科室は、普段は意識していないため気づかなかったが、よくよく嗅いでみると仄かにバニラの甘い香りがした。
そんな家庭科室の冷蔵庫から雪ノ下は勝手知ったる様子で、卵やら牛乳やらを取り出していた。
―それにしても、勝手に学校の食材使って良いのかしらん?
雪ノ下は食材だけでなく、他にも秤やらボウルを取り出してくる。お玉やへら、様々な調理器具をかちゃかちゃ言わせながら準備を始めた。それにしても料理をしない人間ならまず持って来ない調理器具までしっかり準備するとは、
―こいつ! まさか使える力はマグネット・パワーだけではなかったのか!?
雪ノ下ェ...。このアマ、完璧な超人のネプ○ューンマンもびっくりして、正体さらす覚悟で大人げなく喧嘩ボンバー連発して繰り出すレベルのチート女だろ。
...だが、俺も過去は家族の笑顔を守り続けた、誰も語り継ぐことない悲しき料理人...。絶対負けるかもしれなくもなく負けるけど、それでも負けたくない。
自称料理人こと俺と完璧なる悪魔超人は ここからが本番だ! と、気合いを入れ、エプロンをびしぃっと着ける。―が俺や雪ノ下は慣れたことだったため、気にしなかったが、由比ヶ浜さんは料理と関わりを持つ機会が少なかったのか、エプロンの紐の結び目がゆるかった。...と、言うか、見るも無惨にぐっちゃぐちゃだった。
「由比ヶ浜さん。紐が『【グちャぐチゃ】』になっているよ?」
「なんで『ぐちゃぐちゃ』のところだけ妙に怖い声で言うんだよ...」
助言のつもりが恐怖されたし。
「...はぁ、この程度の助言もまともにできないなんて、奉仕部失格。いえ、まともでないのだから、そもそも人間を失格しているのね」
太宰治ですね? 僕も好きです。
「由比ヶ浜さん。そこの紐が曲がっているのよ...。はぁ、エプロンの一つも着れないなんて...。そこのと同じでまともに物事をこなせないの?」
「あ、親切にどうも...えっ!? 着れるよ? エプロンくらい着れるよっ?」
どこをどう見たって着れてなかったじゃないか。
「諦め、悪すぎるんじゃないの?」
「俺さっき紐がぐっちゃになってるって言った...ああ、忘れたんだね。察しました」
「着れるのなら最初から着なさい。適当なことをしていると、そこの男たちのように取り返しのつかないことになるわよ」
「まあ、適当ですから? 取り返そうともしませんがね...」
ギロリ。と、雪ノ下が俺を睨む。
何となく小学生の時、両親にサファリパークへ連れていってもらったことを思い出してしまった。俺の手元にある肉を見つめるライオンの眼差しと俺を睨む雪ノ下の眼光鋭い眼差しとがぴっ
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ