暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第三話 猫達の帰還、伏撃への準備
[5/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
なら夜襲で戦う方がまだマシと言う事だ。


 ――その上、実仁親王直卒の近衛旅団も後衛戦闘を行っている。
宮様直卒の部隊を本格的に戦闘させない為にも独立大隊の俺達がここにいるのだ。
政治的にも増援は有り得ない、来るとしても近衛が撤退してからとなり、そして宮様はギリギリまで粘るつもりらしい。
 ――それを踏まえ、現在の逼迫した状況を考えると数少ない多勢相手に打撃を与えうる機会だ、撤退は出来ない。

 結局のところ、主導権は完全に〈帝国〉軍側にあることを理解した馬堂大尉はその現実を受け入れるしかなかった

同日 午後第十一刻 開念寺門前


 馬堂豊久は門前で細巻をふかしながら忙しなく刻時計と街道を見比べていた。
正式に作戦の開始・撤退の合図である燭燐弾を打ち上げる軽臼砲を含めた大隊騎兵砲小隊と第一・第二中隊の騎兵砲分隊からなる二個騎兵砲小隊、護衛の鋭兵小隊で編成された集成中隊の三個小隊に導術分隊で編成される集成中隊の指揮権を与えられ、支援と退路確保が命じられた。
だが着弾観測と戦況の把握に導術を使うが如何せん導術兵の疲労が激しく使えるのはせいぜい三人、それも長時間酷使する事は出来ず、第二中隊も砲はまだ補給していない為、戦力が心許ないままであった。

「せめて後一個大隊、いや一個中隊分の剣虎兵と余力のある導術分隊が居れば
俺達の生存率も跳ね上がるのだがね」

「無い物ねだりでさえ貧乏臭いといのも寂しいものだな」
隣で仏頂面で細巻をふかす新城が云った。

「環境に適応しているのさ、柔軟性は優秀な士官の証明だ」
減らず口を叩きながら豊久は立ち上る紫煙を目で追った。
蒼い空に光帯が薄く光っている、この〈大協約〉世界では幸運の象徴とも言われているその輝きを頼りに仕掛ける今宵の戦を想像した馬堂は、鬱屈した気分を紫煙に乗せて吐き出した。
「猪口曹長達が砲を確保してくれれば、今晩の戦に多少なりとも貢献できるのだがな」

「曹長は憲兵の扱いは心得てます、よほど融通の利かないものが相手でもただでは転ばんでしょう――噂をすれば、来たな」

 第二中隊最先任下士官である猪口曹長達を出迎えた新城は、彼にとって珍しい事に感嘆の声を上げた、猪口曹長達が馬に牽かせた三台の橇の全てが積荷を満載していたのである。
「大漁じゃないか。これなら砲も。」
 馬堂大尉が、期待に目を輝かせているのを見て猪口は申し訳なさそうに云った。
「騎兵砲は駄目でした融通のきかない憲兵が頑張っておりまして。」
 
「おいおい、頼むよ。」
 目に見えて肩を落とした青年将校を面白そうに見ながら猪口は報告を続ける
「その代わり面白いもんを二種程見つけました。」
 そう言って二台の艝から布をはぎ取り箱が満載されている二台から中身を取り出す。
「施条銃
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ