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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第三話 猫達の帰還、伏撃への準備
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 夜襲作戦での馬堂豊久の任務は第一、第二中隊の騎兵砲分隊を再編したものと大隊騎兵砲小隊、観測・戦況把握のための導術分隊・護衛の鋭兵小隊からなる集成中隊の指揮の予定であった。
 機動力の低い騎兵砲を集中し、護衛をつけて運用できる砲兵将校が彼しかいない為であった。

まだ正式に決定してないが馬堂豊久大尉は既にその準備に取り掛かっていた。
「無茶を言わないでくれ」
申請書類を読み終え、開口一番、大隊兵站幕僚が呻いた。
「やはり騎兵砲の補充は無理ですか?」
 同じ大尉でも先任であり立場も経験も上であり、馬堂も丁重な口調で応える。
「そもそも損失した砲が一門なのになんで要求が三門なんだ」
「着弾観測と戦況の把握にまだ元気な導術兵を使うから砲兵が余るのですよ。
敵に突っ込むのは剣虎兵と尖兵の仕事です。
数少ない砲兵を専門外の地に送る意味は無いでしょう、砲兵に白兵戦は無理ですよ。」
 大隊兵站幕僚は溜息をついて嫌な現実を言う。
「まともに要求を出していたら百年たっても届かないぞ。
輜重段列は糧秣と弾薬で満載だ。」
 ――それは残念ながら見ればわかる。
 馬堂大尉も溜息をついて次の当てを口にした。
「真室大橋の方はどうでしたか?
彼処に集積所を一時期おいていた筈だからなんかしらありそうですが」
 兵站幕僚は苦笑を浮かべながら首を横に振った。
「確かにあそこは逃げ出した連中の装備が山のように放棄されていた、多分砲も有るだろうな。
それに街道も除雪済みだ――その代わり憲兵がいるが」
  ――憲兵か、こんな時に面倒な。
 内心舌打ちをしながら馬堂大尉は妥協案を探す。
「憲兵達には遅滞戦闘に参加するといえばどうにかなりますかね?
――大隊長殿に頼むかな」
 猫に慣れていなくても馬のほうがマシだと撤退時に身に染みたのだろう。
「まぁ、協力はするがあまり無茶をするなよ。
こんなとこで将家絡みのゴタゴタを起こされるのは困るからな」
 
「輓馬は居ましたか? そちらなら理由をつければどうにかできそうですが」
「何匹かはぐれた馬が彷徨いているみたいだ。だがこれも急がないと接収されるぞ。
こっちは砲や銃と違って憲兵共には管理できないし、他の部隊も輓馬は必要だから捌けているだろう。
――お前の部隊の編成は正式には指揮官会議の後だろう?」

「頼む相手はいますよ。もう兵站幕僚じゃない筈ですがね。」



「それで僕ですか」
 大隊長室から出てきた新城直衛は露骨に嫌そうな顔を馬堂豊久へと向けた。
向けられた本人は厚い面の皮でそれを跳ね返しながらにこやかに注文を飛ばす。
「まぁ砲の損失が出たのは中尉の部隊だからね。
後任の中隊長である中尉は可及的速やかに砲の補給に取り掛かってもらいたい。」
ここに偉大なる兵站
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