第百二十二話 蘭奢待その七
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「それですな」
「流石叔父上、おわかりか」
「はい、義満公についてはあえて申し上げませんが」
もっと言えば言えないことだ。
「入道殿に関しては」
「後白河法皇や公卿の方々の多くを敵に回してしまっていた」
それが結果として平家の滅亡につながったことは知られている通りだ。
「そして東大寺ともな」
「その蘭奢待を預かる東大寺とも」
「それではとても」
「うむ、拝領出来る筈がなかった」
それは到底無理だったというのだ。
「だからじゃ」
「平家もまた蘭奢待を拝領出来なかった」
「そうなりますか」
「そういうことじゃ、義満公と平家には人の和がなかった」
それで出来ず拝領しても意味がなかったというのだ。
「あれを拝領し威を見せるには三つが必要なのじゃ」
「天の時、地の利、人の和」
「その三つが」
「そういうことじゃ」
氏康も言う。
「この三つが今の織田信長にはある」
「だからこそ蘭奢待を拝領出来る」
「そうなのですか」
「そして拝領すれば」
そこからだった、むしろそこからが大事だった。
「織田の権威はさらに高まり朝廷からの信頼も強まる」
「では天下人へのさらなる足場になる」
「左様ですか」
「そうじゃ。そこまで考えておる」
織田信長はというのだ。
「やはりあの者、相当なものじゃ」
「あの蘭奢待をも自らの足場に出来る」
「それだけの者でありますか」
「さて、暫くは織田は政に専念する」
これはもう既にはじまっていることだった。
「数年はな」
「暫くですか」
「そうしますか」
「うむ、急に手に入れた領地を治め」
そしてだった。
「それぞれの国の国人や寺社に対してもじゃ」
「政を行う」
「だからですか」
「うむ、検地で国人を取り込み」
「寺社の荘園も組み入れていく」
「それも行いますか」
田畑の開墾に町の拡大、堤や道、城を整えてだというのだ。
「それに数年かかる」
「そうしてですか」
「数年が動かぬが」
しかしだった。
「その数年の後じゃ」
「織田は動きますか」
「再び」
「十九万の兵が動く」
氏康はその兵の数を強調した。
「それが西に東に動き」
「天下統一に本格的に乗り出す」
「そうなりますか」
「武田や上杉がそれにどうするか」
「そして毛利もですな」
「北条もじゃ」
氏康は自分達のことも言う。
「我等もどうするかじゃ」
「それですか」
「我等もまた」
「うむ、織田に対してどうするか」
氏康の向こう傷まである顔に真剣なものが宿っていた。端正だがその向こう傷が彼の顔に精悍さも与えていた。
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