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レンズ越しのセイレーン
Report
Report8-1 ディオニシオス/スターター
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 エルは苦悩を濃く浮かべたが、やがて肯いた。

「わかった。ルドガーにはユティの帰りおそくなるって言っとく」
「帰り道、ひとり、平気?」
「ヘーキだしっ。ルルもいるもん。ユティは、ダイジョーブ?」
「ダイジョウブ。がんばる」
「ナァ〜」
「心配しないで。上手くやってみせる」

 背中を向けて去っていくエルとルルに手を振って見送り、ユティはガイアスとミュゼをふり返った。
 覇王とそれに侍る大精霊の女。実に絵になる。カメラフリークをやめていなければ一枚納めたいところだ。

「一つだけワタシからもアナタにお願い、ある」
「何だ」
「今からワタシと鬼ごっこ、して」





「どういうことだ」

 ガイアスはローエンやジュードから事前に、関わることの少ないユティの性格を聞いていた。突拍子がなくマイペース、されどレンズ越しのまなざしは確かに周りを捉えている。総じてそういう人物評。

「アナタがワタシを捕まえられたら、ワタシはクルスニク一族としての仕事を見せる。捕まえられなかったら、そこまで。ワタシはアナタの言うこと聞かない」
「素直に従う気はないということか」
「ワタシはエレンピオス人。アナタは外国の王。アレしろコレしろって命令されてハイハイ従う義務はないと考えてる」
「ずいぶんと好戦的な物言いね。あなたって見た目通り怖いもの知らずなのかしら」

 ミュゼはおっとりと、しかし欠片も優しさはなく首を傾げる。ユティの返答いかんでチャージブル大通りは陥没しよう。

「敬意は払ってる。ア・ジュールの黎明王にして、リーゼ・マクシア統一を成し遂げた覇王が相手だもの」

 声は無機質で敬意はおろか何の感情も汲み上げられない。

「フィールドはトリグラフの街の中。外に出たら問答無用でワタシの負けでいい。ミュゼの協力はアリ。ただしミュゼが捕まえても勝ちにはならない。あくまでアナタの手でワタシを捕まえてみせて。ゲーム終了条件はアナタによるワタシの捕獲」

 低く上げた両腕は、羽根を広げた蝶を思わせる。

「で、どうするの? ワタシのお願い、聞いてくれるの、くれないの」

 口調は拗ねた小娘でありながら、メガネの奥の蒼眸は戦いに挑む前のそれ。

「一つ言っておく。俺は子どもの頃『ア・ジュールのサル』と呼ばれた男だ。妹に木の上から獲ったサクランボを投げて遊んだりしたこともある」
「意外」
「意外ね……」
「とりあえずアーストの実力、了解した。始めていい?」
「構わん」
「ミュゼ、スタートの合図、して」

 ミュゼは「♪」が幻視できそうな調子で腕を掲げた。あれは十中八九、悪意のない騒動を起こす前触れだ。ガイアスは密かに何が起きても動じない覚悟を決めた。

「よーい……スタート!!」

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