反転した世界にて5
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"僕"が、"この荒井くん"と積み上げてきたものではない。言うなれば、僕が"この世界の赤沢拓郎"から横取りしたようなもので、僕が我が物顔で主張していいようなことではないのかもしれない。
でも、だからこそ、考えてしまうのだ。
この荒井くんと、あの荒井くん。違っているのは髪型と眼鏡レスなところ。そして僕に対してやたら優しいこと――くらいの差だ。
話し方も仕草も、ゲームの趣味……は大分違うけれど、とにかく、同一人物だと判断できるくらいには、僕から見る荒井くんは、荒井くんのままってこと。
心の中で、今までの立ち振る舞いを鑑みる。
――思えば僕は、ことあるごとに自分の容姿や性格を言い訳にして、他人との接触を遠ざけて生きてきた。
『他人が嫌い』と、思われたって仕方がない。なんだかんだと言い訳をして、他人から離れようとしていてのは、僕の方なのだから。
それなのに荒井くんは――、"元の世界の荒井くん"は、僕に構ってくれていたじゃないか。
今となっては、元の世界の荒井くんが何を思っていたのか、確認するすべはないけれど。
僕だってもうちょっと積極的に――せめてメールアドレスを交換できるくらいに、荒井くんに対して心を開いていたのなら。
「でもお前、もし他の男子から告白されたときに、『ぶっ飛ばす』なんて言葉使うのはNGだぞ。もうちょっとオブラートに包んでさ……」
「いや、仮にでもそういうこと考えるのはやめようよ」
「いやいや大事なことだぞ。お前、今までホンットに社交性ゼロで近寄りがたいキャラだったんだから。それが急に今のキャラに変わったりしたら、勘違いする輩がいたってなんらおかしくはない。白上みたいにな」
「白上さんならともかく、男子が来たらちょっと冷静ではいられないかな。悪い意味で」
「白上ならって……、そうだよお前。ちょっとその辺詳しく――」
「……」
"元の世界"でだって、僕と荒井くんはこんな風に下らないことを言い合える仲――すなわち親友同士にだって、なることができたんじゃないだろうか。
意味のない感傷ではあるけれど、考えずにはいられなかった。
「……ありがとう」
ぼそりと、荒井くんに向かって、でも聞こえないように呟く。
しかし僕のつぶやきは、ばっちり荒井くんの耳に届いていた。荒井くんは少し驚いたような顔をした後、げんなりとした顔で、
「……お前がデレるのかよ。考える時間を貰ってもいいですか」
「考えないでよ。即断ってよ」
「いやでもちょっとだけドキッと来たぞ今の台詞と表情」
「やめろよマジで。お友達でお願いします」
◇
「へくちっ!」
『なに、風邪?』
「あー、誰か私の噂してるのかも」
赤沢拓郎と荒井祐樹が、電車の中で雑談をしていた頃と
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