反転した世界にて5
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……この期に及んで、荒井くんを説得しようと頭を回転させている僕の姿は、やはり、『変なところで頑固』と思われているのだろうか。
ままならない。
「どうしてもなんとかしたいってんなら、もう病院に行くしかないかもな。俺が拓郎を連れて行くってことはしないけど、お前の親御さんとかはな。あまりにも違和感を感じたらその限りじゃないだろうし」
「それだけは、マジ勘弁」
いや、もちろん。そんな我儘を言っていられるような、いよいよ抜き差しならぬといった事態に陥ったのならば、流石の僕も、壁が白くて窓のない部屋に軟禁される覚悟を決めなくっちゃいけないんだと思う。
いよいよ、っていうのは、即ちあまりのカルチャーショックに耐え切れずに暴れ出したりとか。
僕の深層心理に押し込められたかもしれない、"元の世界の赤沢拓郎"が、僕に心の中で話しかけてきたりして、僕と僕が自分の身体を奪い合って拓郎大戦争だなんて局面に発展するまでは、そういうところのお世話になるのは避けたいと思う。
「だったら、早く記憶を取り戻すか、あるいは"この世界"に、さっさと慣れるかして。誰にもバレないようにするんだな。なに、難しいことじゃないだろ。俺だって話を聞くまでは、気が付かなかったとは言わないまでも、そんな突飛なことを言い出すだなんて思ってもみなかったんだしさ。当然、協力だってする」
「ありがとう……。あと、このことは」
「『このことは』、誰にも言わねーよ。当たり前だろ、言えるわけねーよ。……別にお前のためじゃねーぞ。こんな話を誰かに漏らして、『俺が拓郎に嫉妬して陥れようとしてる〜』、なんて噂が立ったら堪らないからな」
「荒井くん……」
コイツは、ホントにコイツは。憎たらしいくらいにどこまでもイイやつだった。
心の底から、救われてる。もし荒井くんがいなければ――僕の存在を認めてくれて、これからも頼りにできる友人という存在がなかったりしたら。
きっと僕は、価値観の相違や、様々な重圧に耐え切れず、やがて本当の意味で精神をおかしくしていたに違いない。
「ホントしつこいくらいツンデレだよね荒井くんって」
「ツンデレ言うな」
けれど素直に感謝するのは小恥ずかしいので、憎まれ口を叩いてしまう。
あ。
……そっか。こういうのだ。
ふと、僕が全然脈略なくだけれど、とあることに気がついた。
「……もしも、俺のはツンデレじゃなくて、デレだって言ったらどうする?」
「ぶっ飛ばす」
「手厳しいな。ま、そういうところも拓郎らしいよ」
「まずは前言を撤回してくれないかな」
お互いに遠慮なく、傍から見たら眉を潜めてしまうような言葉でも気にせず言い合えるような。
――僕にとって荒井くんは、そういう存在なのだと、気づく。
それは、
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