Episode 3 デリバリー始めました
皮を食して肉を食さず
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つだ」
「あぁ、ヤクゼンってやつだニャ。 でも、あれはどちらかというと味が後回しになりかねないからあまり好きではないニャ」
「たしかに本格的に作ると、クソ不味い漢方薬がたっぷり入るからな。 けど、そこまでマズい食材を使わなくても薬膳は成立するんだ。 ようは"体の欲しているモノ"を与える食事を考えればいい」
そこで意味ありげな笑みを浮かべると、キシリアは不意にポメに向かってこんな問いかけをした。
「なぁ、時々、無性に特定の食べ物を食べたくなることが無いか? しかも、あまり普段食べたいと思うものじゃないのにだ」
「確かにそんな時がたまにあるニャ」
「それは、体がその食べ物を欲しているって事だ。 だから、その食べ物を与えることで体が健康をとりもどし、同時に美味しく食事を取ることができる」
そう告げながら、キシリアは横に立掛けてあった黒板に、チョークで人体を模した抽象的な図形を書いた。
「聞けば、彼等はひどい火傷を受けたばかりで、表面の傷こそよくなってはいるものの、それに伴う体力の衰弱が残っているらしい。 なら、体が欲しているのは何だと思う?」
チョークで人体の図の表面に火のマークを書き込み、『皮膚の損傷・欠落』と書き足すと、今度はテリアのほうを見て問いかける。
「ニャー 火傷を負って皮膚を再生したならば、その皮膚の材料となるモノが不足するにゃ」
「その通り。 ならば、皮膚となるものを補ってやればいい。 これを薬膳の専門用語で"以臓補臓"と言う」
目を患ったならば、目を形作る材料である目を材料とした料理を。
肝臓が悪ければ、肝臓を材料として料理を作る。
難解なものが多い薬膳の理論の中では、比較的に判りやすい部類の概念だ。
「にゃ? けど、皮膚の材料って何にゃ? まさか、牛や豚の皮だけを焼いて食わせるわけにもゆかないニャ」
魔界の常識に照らし合わせれば、牛や豚の皮を煮込んでも、出来上がるのはせいぜい接着剤代わりの膠がせいぜいだ。
そもそも食べ物ではないし、それ以前にすさまじい異臭が発生するため、それを食べようなどと言う酔狂な猛者はまずいない。
だが、キシリアはその反応を予想していたらしく、ニヤリと笑った。
「そのマサカだ。 まぁ、牛や豚の皮じゃなくて、鳥の皮だがな」
「「そんにゃバカにゃ!?」」
想像しただけで吐き気を覚えるその台詞に、ポメとテリアの悲鳴が揃った。
そんなケットシーたちを、哀れな者を見る目でキシリアが見下す。
知らないという事は、なんと不幸なことだろう……と。
「あるんだよ。生き物の皮だけを食べる高級料理が」
そう、あえて肉を廃し皮だけを食べるという異色の高級料理。
その名を、"北京ダック"と言う。
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