第三十二話 汚い大人ってどう思うよ?
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、何度も喉を鳴らす立会人だが、許された行為である首を縦に振ることだけはできた。
この後、彼は学園から去った。
理由は一身上の都合というものだったが、その本当の理由を知る者は少なかった。
未だ歓声が鳴り止まない中、気配を殺すように隠れて決闘を見ていた者達がいた。
「フシシシ、やるねぇ彼。トーゴ・アカジだっけ?」
肩まで伸ばしている紫色の髪の毛を、後ろでスリーテイルに結(ゆ)っている。
無邪気そうに笑うと八重歯が覗いて野性的な雰囲気を出す。
それもそのはず、その頭にはウサギのような長い耳がピョコンと生え出ている。
体の凹凸はハッキリしていて、出るところは出ている。
間違いなく女性である証拠だ。
「どう思うのかなフービ?」
彼女が視線を送った先には、ゴリラのような巨体で威圧感を放つ男が、腕を組みながら闘悟を見つめている。
「黙れシャオニ。獣人如きが俺の近くに寄るな」
汚い物を見るような表情で、シャオニと呼ばれた少女を睨みつける。
「フシシシ、相変わらずだよねぇ。差別からは何も生まれないよ?」
「この国が異常なだけだ」
「……ま、いいや。ワタシは帰るね! あ〜面白かったぁ! 出来試合だと思ってたけど、予想外の結末だよ! フシシシ、じゃあねん!」
そう言うとシャオニはその場から姿を消した。
またも嫌そうな顔をしたフービだが、再び視線を闘悟に向けた。
(あの時、リューイの最後の攻撃。奴はとんでもないことをしやがった)
フービは先程の闘いを振り返る。
リューイの『雷の枝(スパークトゥイッグ)』が闘悟に届く瞬間、闘悟は全身に信じられないくらいの魔力を宿し、全ての枝を叩き落とした。
しかも、それを素手で行った。
とてつもない速さと、魔力だった。
恐らくあの時、闘悟が行った全容を理解できてる者は少ない。
それよりも恐ろしいのは、この決闘で闘悟は魔法を使っていないということだ。
身体能力を強化しただけで、エリート貴族を打ち負かした。
それも武器も何も使わずだ。
「……トーゴ・アカジか」
フービは楽しそうに笑みを溢(こぼ)した。
まるで肉食獣が獲物を見つけたような顔つきだった。
「おいおいおいおい、勝っちまったよトーゴ……」
呆然としながらも呟くように声を上げるのはネコミミ男子ことカイバだ。
「う……うん……」
メイムも目の前の現実が信じられないといった様子だ。
「当たった……よ?」
首を傾げているのは天使のように透き通った雰囲気を醸し出すヒナだった。
「当たったって何が?」
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