第1章 アクセサリー
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の俺とあの食人鬼のことだ。
俺は腰が抜けてその場に尻餅をついてしまった。
「見たな……?」
食人鬼は俺を睨みながら言った。
そして俺は気づいた。こいつには絶対に勝てないと。逃げるしかできないと。さっきまでの熱い興奮が一気に冷めたのが分かった。
「っはうぁ……」
息が十分にできないほどの緊張。
死を……覚悟した瞬間だった。
「グルルルルルルルラアアアアアアア!」
食人鬼は獣のような雄叫びを上げて俺向かって突進してきた。早すぎて反応に時間がかかるほどだった。
人間は普段、半分も自分の力を発揮しない。何故なら発揮すれば自らの体を傷つけてしまうからだ。
だが俺には分かった。自分がこの一瞬、100%の力を発揮したことを。
反応に無理がある相手にでも余裕で反応ができたのだ。それも一瞬。
「ぐああっ!」
なんとか避けれた。だが、そのまま逃げれるほど俺の体は丈夫じゃなかったようだ。
一瞬だけ100%の本気を出した俺の体はそれだけで動かなくなった。
「なっ」
俺の体からエネルギーがすり抜ける感覚がした。
力なく地面に倒れこんでしまった。
「グルルァ……」
あいつが近づいてくるのが分かる。
俺は仰向けになり無様に体を引きずりながら逃げる。重い。全身が重い。俺の体が、もう動かない。限界だ。
「はぁ……なんだよもう」
急に自分の人生が馬鹿馬鹿しくなった。
「はは、これじゃあ美紀と一緒でこいつの養分になるだけかよ」
俺は自分でも驚くほど脱力しその場に背を付けた。
走馬灯に駆られている間に食人鬼は俺を馬乗りしていた。
腹と腕は抑えられてもう動けない。
「ハァア……」
食人鬼の生々しい息が俺の頬に当たるのを感じる。
「いい人生……だったとは言えないな」
最後の最後に悔いを残した人生だった。
俺はゆっくりと目をつぶり死を受け入れた。
すると突然体が軽くなった感じがした。
ああ……。きっと死んだんだ。今頃あいつは俺の体を貪り喰っているに違いない。
すまないな……美紀。
「まだ逝くのは早くないかい?」
上の方から声が聞こえた。きっと神様だ。
もう戻るところなんてないですよ。
と心の中で思った。神様なら俺の心くらい簡単に読んでしまうはずだ。
「何をしている。早く起き上がって逃げなければ」
この声は一体何を言っているのだ? 俺は死んだのだ。もう還る体などない。
「おい! 何を寝ている! 君はまだ生きているのだぞ!」
パチリと目が覚める。
「生きている?」
「ああ。君はまだ死んではいない。生きているんだ」
た、確かにまだ体がある。さっき倒れこんだ場所と同じ場所だ。
体が軽くなったのは食人鬼が俺の上から消えたからだ。
「一体……何が起きたのだ…
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