第一物語・後半-日来独立編-
第三十章 辰の地、戦火は走る《1》
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を感じられなかったのだ。
人が隠れている時に、あそこに誰かいるかも。と感じるようなそれが無かった。
今は、誰かがいたがいなかった、という状況だ。
しかし、幾ら日来の者と言えども実戦の訓練くらいはする。他よりも訓練内容は劣るだろうが、時間の空いている時間に皆とも訓練はした。
訓練の成果が出ていないわけではないが、敵の方がこちらより格段に強いことは理解出来た。
ここは時間を掛けてもこの場を動かず、相手の出方を伺う。
潜むように息を殺し、何時来てもいいように足を肩幅に広げ、重心を爪先に置く。
遠くから聴こえる戦闘の音。
町を流れる風。
ここに来て耳にする音だけが聴こえ、他の呼吸音などは一切無かった。
沈黙の時が過ぎ、とうとう敵側に動きはなかった。
「勇気を出して行ってみるか」
地面を蹴り、細道から出て着地する前から構えを取る。
足が地に着く前に前方を、着いたなら右から後ろを見て、すぐに左を確認する。
この場には既にいなかった。
何をしに来たというのか、疑問に思った。
セーランは自身の頬を通り抜けたものは何かと、自身が先程出て来て立っていた場所の後ろに建つ家の壁を見る。
日来と同じく木製の家の壁に、紙が巻き付けられた矢が刺さっていた。
これだと思い、紙を外しに矢の元へ歩き、丁寧に巻き付けられた紙を取り外す。
広げ、そこに書かれていたものは、
「委伊達家の悲劇。かの村にて待つ」
とだけが書かれていた。
何の意味があるのか。罠にしてはやり方がおかしいし、味方がやる筈もない。
だが、これをセーランは無視出来なかった。
“委伊達家の悲劇”とは、もしやと思った。
「そこに行けば、何か解るんだろ……?」
彼女のことについて、まだ多くのことを知らない。
救いに行くのならば、知らなければならない。
何故、彼女が死を求めるのかを。
かの村とは、辰ノ大花の西貿易区域と黄森との境の中心にある村を差す辰ノ大花特有の言葉であり、そこへ行けばいいと言っている。
まるでこちらに来てほしいかのように。
感じるだけで、自分がそう思っているだけかもしれないが、当たり外れも時の運だ。
「どうせ結界壊れるまでやることもないし、行ってみようじゃないの」
結界を壊す手助けが出来たかもしれないが、それは要らぬ手だろう。
頼れない仲間ではない、頼れる仲間であるから心配は無い。
そこへ行けば何かがあると思い、紙を握り締めセーランは一人走り出した。
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