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銀河英雄伝説〜その海賊は銀河を駆け抜ける
第三十三話 伝言
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同盟領奥深くに引き摺り込んで補給を断つ、そこにフェザーンで反帝国運動が起きれば、そう思ったのだが……。こちらの狙いを未然に断ってきたというわけか……。黙っているとボリスが言葉を続けた。
「それに宇宙の統一後、帝国はフェザーンに遷都するという噂が有る」
「遷都?」
遷都か……、確かに有り得ない話じゃない。しかし……。

「その噂だけど出所は何処かな?」
「黒姫一家らしい」
「それは……」
罠だと言おうとしたがボリスが手を振って止めた。

「分かっている、こちらを押さえるための噂かもしれない。しかし考えてみれば有り得ない話じゃない、そうだろう」
フェザーンの位置を考えれば十分有り得る話だ。フェザーンはオーディンなどより遥かに帝都に相応しい条件を持っている。

「フェザーンが銀河統一後の帝都になるなら今以上に繁栄するだろう。その事も反帝国活動を起こし辛くしている」
「飴と鞭か……」
ボリスが頷いた。表情は苦い、不本意なのだろう。
「同盟が健在ならともかく現状では反帝国運動は無謀すぎる、それよりは新帝国での繁栄を選ぶべき、皆がそう考えている」
「なるほど」

兵力だけでも圧倒的に不利なのに……、何とも嫌らしい事を仕掛けてくる。ローエングラム公が武勲第一位と評したのはこれが理由か。眼に見える武勲では無く目に見えない所で敵の力を削ぐ……。アムリッツアでこちらの補給を断ったのと同様だ。敵の力を弱め味方の勝利を得やすくしている。戦術では無く戦略面での貢献……。

「ヤン、あんたに伝言が有る」
「伝言?」
「そろそろ戦争を終わらせる時が来た、民主共和制に囚われて詰まらない事はしないでくれと。それから戦争をしないで済む時代がようやく来る、邪魔をするのは許さない……」

驚いてボリスを見た。ボリスは何処となく怯えた様な目をしている。
「それは一体……」
「黒姫からの伝言だ」
「黒姫からの……、会ったのか?」
声が掠れていた。黒姫が私に伝言を寄越した……。

「酒場で会った。偶然か、そうじゃないのか、俺には分からない。だが奴は俺達が知り合いである事も俺がお前に会いに行こうとする事も知っていた」
「……馬鹿な、どんな男だ」
私の言葉にボリスが分からないというように首を横に振った。

「五分も話したかどうか……。サングラスをしていたから目は見えなかった。だが口元には笑みが有った。冷たい笑みがな」
「……」
「怖いと思ったよ、背筋が凍るような怖さを味わった。あの男を敵に回したいとは思わない」

ボリスの声には明らかに怯えが有った。そして私も怖いと思っている。一度も会った事は無い、しかし相手は私の事をかなり知っている。何処まで、何を知っているのか。得体のしれない恐怖感が身体を包んだ……。


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