ALO編
episode3 四神守
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気が付いたら、知らない天井だった。
「起きろってんのよ、ったく、この私の時間を何だと思ってるわけ?」
だが、少々病人に対するには相応しくない声には、聞き覚えがあった。
……有難くないことに、だが。
「ふぉきまふぃた……」
あまり文字にしたくない感じの間抜け声が出た。
原因は、俺の鼻を抓んだ細い指のせいだ。
「やっと起きやがったわね、このスカタン。ほら、さっさと帰りなさい」
「……一応俺、怪我人として医務室に来たんじゃないんですか……? 蒼夜さん」
四神守蒼夜。
現当主である爺さんの第二子に当たる人……つまりは俺から見れば、伯母さんに当たる女性だ。母さんが四十であることを考えるともう結構な年なはずなのだが(残念ながら俺はこの方の年齢を人に尋ねる勇気はない)、その外見はやや硬質なものを感じさせるもののそれでも二十代と言っても通じそうなほどに若い。
切れ長な流し目には爺さん譲りの意志の強さを宿し、瞳は吸い込まれるような黒色。同じく黒色の髪は絹のように真直ぐに流れて腰まで伸びる。細身な体には少々不釣り合いな日本人離れした立派なお体が、ちょっと刺激の強い寝巻に包まれている。どれをとっても到底四十過ぎには見えない。
まあ、五十過ぎと言っても通じそうなくらいの迫力があるのだが。
「怪我人なんて診たくないわ。私が診るのは金払ってくれる『患者さん』よ」
「医者ってそういう発想の人間でもなれるんですね」
「医者っていっても千差万別なのよ。まさか私がそこらの凡人共と同じだと思ってはいないでしょう」
「……普通じゃない自覚はあるんですか」
「特別なのよ、私は。それを自覚しているからやっていけてるのよ」
そしてこの人は、外見を裏切らないキレ者でもある。
某有名私立大学の医学部を卒業したれっきとした女医であり、その若さで四神守の系列病院を束ねる才媛。また専門分野ではいくつもの論文を評価されており、大学関係の系列病院へと外勤へ行くことも多く医師会にもそれなりのコネクションを持ってもいる人だ。勿論そんな人間であれば仕事は多忙を極め、たまの休日くらいは家で惰眠を貪っているわけであり、そんな中に牡丹さんから唐突に呼び出されたわけであってこの不機嫌具合もまあ頷けなくはない。
まあ、彼女が上機嫌の時なんて見たことがないが。
「起きたらさっさと出て行きなさい。私ももう一眠りしたいんだから」
「……一応こういうときって気分とか確認して診察するんじゃないんですか?」
ひらひらと手をふって追い出そうとする蒼夜伯母さんに、確認しておく。
一応怪我人として運ばれたのだが、この対応ではきちんと診察されたか疑いたくもなるだろう。
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