反転した世界にて4
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かもしれない。
とにかく、僕は話すべきことを話し終えて、コーヒーを一口飲んで、乾いた口内を潤す。
「…………」
「モグモグモグ、ゴックン」
僕が話をしている間に、荒井くんは最後の一切れとなったモンブランを口に運び、咀嚼して、飲み込んだ。
次いで、口元を紙ナプキンで拭ってから、口を開く。
「……その、なんだ。言いたいことは色々あるんだけどさ。まず一つだけ」
「はい」
「冗談ではないわけ?」
「荒井くんの知ってる僕は、こういう冗談を言う奴だったのかな」
「いや、言わないな。っていうか、そんなに喋ってる拓郎を見たのは今日が初めてだ」
荒井くんは疲れたような――実際、僕の長い話を聞いて疲れているのだろう――表情で、苦笑いを浮かべながら大きなため息をついた。
「正直、真面目にリアクションするなら、病院に行けとしか言いようがない」
「だよね……」
「だってお前、こんな馬鹿げた話を大真面目にしてるんだもん……。ホントなら縄にかけてでも病院に連れて行くべきなんだろうけど」
「それは困るかな……」
荒井くんの可哀相な人を見る目が、突き刺さってすごく痛い。比喩じゃなく。
やっぱり、他人に話すのは早計だっただろうか。――なんて、ちょっと考えればわかることだった。誰かに僕の現状を理解してほしい、話を聞いてもらいたい一心で、安直な行動をとってしまった。
――今からでも、『冗談だ』と言えば……。
と、口を開こうと顔を上げると。
「――だから、真面目に聞かないことにする」
「え?」
にやりと、まるで面白いエロゲを発掘したことを語るような表情で笑う、荒井くん。
「ふざけて話を聞くことにする。この話は、拓郎生涯を賭けた渾身の創作だと勝手に仮定して話を進めるんだ。悪く思うなよ? 真面目に律儀に付き合ってたら、俺の方まで頭がおかしくなっちゃいそうなんだだ」
「う、うん! それでいいよ。話を聞いてくれるなら」
や、やべえ。こいつ、超良いヤツだ。
いいヤツだなぁとは、高校に入学してからずっと思っていたけれど。こんなにもお人好しだとは知らなかった。
「別にお前のためじゃねーよ。身内が黄色い救急車に連れて行かれたなんて噂が立ったりしたら、俺に迷惑がかかるんだから」
「荒井くん……」
いつもは気持ち悪く思うツンデレも、いまだけは照れ臭い。
荒井くんマジ僕のソウルフレンド。やばい、泣きそうだ。
「おいおい、泣くなよ」
「泣いてねーし」
「とりあえず、んじゃ、話を整理しようぜ」
「う、うん」
荒井くんは砂糖のたっぷり入ったカフェオレで口を潤して一息置いて、口火を切る。
「まず――元の世界とやらについて確認だ。OK?」
「オーケー」
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