反転した世界にて4
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ていると、いつの間にか荒井くんは僕の目の前にまでやってきた。
バツの悪そうな顔で、手を合わせている。
「は?」
「な、なんだよぅ。そんなに怒ることないだろ」
「別に怒ってるわけじゃないけれど……。僕たち、帰りの約束とかしてないよね?」
「うわっ、傷ついた。なんか知らないけど今の台詞グサッときた」
「ご、ごめん……」
「俺たち駅まではいつも一緒に帰ってるだろ? 降りる駅が違うから、電車までだけど」
「そうなんだ……。そうなってるのか……」
今日は度々、荒井くんと僕の間で認識に齟齬がある。
価値観の変容が起因となっているものもあれば、今回のように、そもそも話が噛み合わない場合と、実に様々だ。
――ふと、思いつく。
「……あのさ」
「ん?」
僕の現状を、荒井くんに相談をしてみようと思う。
世界の変化か、僕の異常か。それはともかくとして、とにかく変わってしまってから。一番僕と親しくしてくれているのが、荒井くんだ。
この荒井くんなら、僕の話を真面目に聞いてくれるような気がするのだ。
それが事態の解決に結びつくかどうかは別として。少なくとも、僕の認識と僕以外の認識を擦り合わせることは出来る。
……最悪の場合、精神異常者と見做されて唯一の親交を失ってしまう可能性もあるけれど。
でも、僕一人で抱え込むには重すぎる。
ぶっちゃけ、誰かに話したい――それが一番の理由だ。
「……荒井くん。この後、時間ある? もし都合が良ければ、ちょっと寄り道したいんだけど」
「へえ、拓郎の方から誘ってくるなんて珍しいじゃん。いいよ、行こう行こう」
荒井くんは少しだけ意外そうな顔をすると、嬉しそうににんまりと笑って二つ返事で了承してくれた。
……僕の方から誘うのが珍しい。と荒井くんは言う。
僕の記憶が正しければ、"僕が荒井くんを遊びに誘ったこと"なんて、一度もない。
何度も言うけれど、僕は荒井くんとそこまで親しかったわけではない。荒井くんの方が、コミュ症僕に気を使ってたまに構ってくれていただけだ。
「んで? どこ行くの?」
「ゆっくり話ができるならどこでもいいんだけど……。マックとか?」
「俺、ジャンクフードってあんまり好きじゃないな。そうだ、最近駅前に新しくできた喫茶店。せっかくだからそっちにしようぜ」
「ほう。喫茶店とな」
喫茶店でお茶するようなガラじゃねーだろ。などと言うのは早計だろう。価値観的な意味で。
でも、うーん、ああいうところって、ちょっと高いイメージがあるんだよなぁ。今月の我が財政的にちょっと厳しいんだけど……。
しかし、こちらは付き合ってもらう身分だ。荒井くんに合わせるのがベターな選択と心得る。
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