木曾ノ章
その2
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宿舎に着く。門前には二人、警備か。
警備の者は私が艦娘だとわかると道を開けた。建物に入り、無人の廊下を歩く。遠目から見れば大きな建物で、中もそれなりに広いだろう。どこへ行けば良いかわからないので、ただ歩くことしかできないのが現状だ。
「『死にたくない』か。弱虫め」
誰も居ない廊下で、独りごちる。先ほどからその言葉が、頭を木霊している。
無論、私も全く恐れぬわけではない。そこまで愚鈍ではない。けれど、死の恐怖に染まったまま戦うことはできない。震える手で放った砲弾は、敵に当たることはない。
全艦が無事に帰港する。これは軍艦学校で耳にたこができるほどに聞いた言葉だ。私はその都度、敵を撃滅することと返した。その度に私は教官に怒られるハメになった。あの学校の日常の一部になっていたと言っても過言でない。
今でもそうだ。艦娘の生きる意味は何か。という問がもし私の前に現れたなら、奴らを沈めることとすぐに答える。
海に現れる奴らは、ただこちらを殺戮し、蹂躙するだけの化け物だ。奴らを沈めることが、艦娘の悲願である。概ね同じようなことを軍艦学校で習い、私もそう思っている。
ならばその悲願のために傷を負うことは否か。奴らは強い。傷なしで勝てるというのか? そんなことはありえない。そうでなければ、今まで奴らに世界は苦戦していない。例え傷を負うても、ただ奴らを撃滅し、勝利を刻む。それが私の望み。
「誰?」
急に、話しかけられた。横を見ると、丁度扉が開いており、そこに一人の艦娘が居た。中から出てきたのだろう。
「木曽だ。本日付けでここにいる」
少々無礼な訊かれ方だったが、正直に答える。向こうが先輩だろう。
「不知火よ。今日新しく何人か来るとは聞いていたけど、その一人ね。引き止めて悪かったわ。見慣れない顔だったので」
提督のもとに行って、また話をしよう。ふと、そう思った。
「気にするな、俺でもそうしただろう。それより、提督の場所を知らないか?」
尋ねると、不知火は怪訝そうな顔をした。
「普通は在任中の仲間が迎えに行くけど、貴方は一人だったの?」
「いや、提督が居た。けれど途中で別れてな、提督は先に行った」
「提督自らが? まぁいいわ。提督の場所ね、案内するわ」
不知火は部屋を出て扉を閉めると、前を歩き出した。私もそれに続く。
「木曽さんね、見る限り軽巡かしら」
「ああ、球磨型だ。そっちは、駆逐艦か」
「そうよ、陽炎型。そういえば、挨拶もしていなかったわね。改めて、宜しく木曽さん」
「宜しくな不知火」
話し方が無礼と言うか乱雑な気がしたが、中々良い人のようだ。話し方においては、私は人のことを言えないが。
彼女は宿舎を出て、傍にある建物に入った。こちらも警備の者がいたが、不知火と私が艦娘であるとわかると、すぐ
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