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珠瀬鎮守府
木曾ノ章
その1
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うだったからだ。私は後ろを向いて、艦娘の宿舎に走った。



 艦娘が多数在籍可能で、複数の艦娘の治療や武装の類を保管できる場所など、この港の設備は十分にあった。それに伴い敷地面積は十二分に大きかった。
 何が言いたいかと言うと、道に迷ったのである。だけれど、私は世に言う方向音痴ではないと自分を分析している。私はこの港は初めてなのだ。地図などは当然頭に入っていない。更に私の背があまり大きくないので壁向こうが何もわからず。生憎の曇天で方向が失いやすいことが手伝って、中々元の宿舎に戻れなかっただけである。
 しょうがなく、海の傍まで出て行って、海岸を歩いて行くことにした。それが幸か不幸かは知らないが、一艦の艦娘を見ることができた。早速近づいて、声をかけてみる。
「よう。私は本日付けでここに配属された木曾だ。あんたは、なんて名前だ」
 私は、先ほど口調がどうのこうと考えた気がするが、直せる見込みはないように思えた。諦めよう。
「わ、私は吹雪、よろしく」
 いきなりの自己紹介で面食らったのか、吹雪と名乗った彼女は少々どもりつつ答えた。
 少々無礼だが、彼女を頭の先から爪先まで見てみる。私と同じで、武装は施されていない。簡易装甲と武装付加用の場所から見るに、恐らく駆逐艦。水雷戦にぴったりだ。
「吹雪、早速だが私の艦隊に入らないか」
「え?」
 言うことが突拍子もなかったからか、吹雪は驚いた風だった。
「私は本日着任し、第二艦隊旗艦に選ばれたのだが、私以外に第二艦隊に艦娘はいなくてな、仲間を集っている最中なんだ」
「へぇ、そうなんですか。悪くない話ですね、詳しくいいですか」
「水雷戦隊を組みたい。軽巡や駆逐の輩を集めて、敵の懐に飛び込んで殴り合いが主な戦い方となるだろうな」
「危険ではないですか」
「当たり前だ」
 吹雪は、一寸考えたあと、
「お断りさせて頂きます」
はっきりと答えた。
「理由を、聞かせてもらえないか」
 提案を飲む飲まないは吹雪の勝手だ。無理強いするつもりは全くない。だけれど、その理由が聞いてみたかった。
「私は、木曾さん。『死にたくない』んですよ」
「何?」
「私は、死が怖いです。被弾覚悟の戦いではなく、無事にまた港に帰ってこれる戦いをしたいって、私は思っています」
 だから、その申し出は断らせて頂きますと、吹雪は答えた。
「……分かった、時間を取らせたな。じゃあな」
 吹雪に別れを述べて、また宿舎に向かって歩き出した。なるべく早急に、この場から立ち去りたかった。
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