木曾ノ章
その1
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優れぬと言える提督ならば、こうはなるまい。けれど、この男はやりそうであった。故に、なるべくよい印象を持たせなければならない。
「改めて名乗ろうか、俺は鎮守府付属柏木大佐。提督で、此の港の全指揮をしている」
提督は、私の前を歩きながら、話した。
「軽巡洋艦、木曾だ」
ああ、しまった。敬語を使わないといけないな。
「早速だが、木曾。お前には第二艦隊旗艦を務めてもらう」
「任せてもらう分には構わないが、質問がある。いいか」
柏木と名乗った提督は、怒らなかった。私の此の話し方は、軍艦学校の間に酷く注意を受けている。
「話せ」
「まず、話し方はこれでいいのか」
なので、質問したいことは多々あったが、まずはそれを聞いてみることにした。
「構わん」
一言で返された。合理主義者なのだろうか。私は小さく肩を竦めると、他の質問に移ることにした。
「じゃ、他のを。私は軍艦学校在学中に抜かれて此処に来た。第二艦隊旗艦もそうだが、何の意味でそうなったんだ」
「答えられん」
「そうかいそうかい」
この提督、私の質問には最低限しか答えないつもりなんだろうか。
私も艦娘だ。秘密には触れないでおこう。
「では私からも質問だ。お前は何故戦う」
提督は、今度は質問を投げかけてきた。簡単な質問である。答えは一つしかないからだ。
「敵を沈めるためだ」
答えを聞くと、っふ、と。前を歩く提督は漏らした。どのような顔をしていたかは窺い知れない。
「質問はそれだけか? じゃあ、進言したいことがある。俺の艦隊に水上偵察機の類は要らねぇ。魚雷が積める奴らを寄こしてくれ」
提督は質問にはすぐには答えず、足を止めた。
「お前は自分で仲間を集え」
しかしそれも一瞬で、また何にもなかったように歩き出した。
「は?」
「私が受け持っている第二艦隊は、お前以外居ない。戦友は自分で集めろ」
「意味がわからんな。提督が配備すればいい話じゃないのか」
「『敵を沈めるため』にその仲間を集うんだな。水雷戦隊でも何でも組むがいい」
「質問に答えていないぞ」
「同志を集え。お前の目的のために動け」
成程、敵を沈めることしか考えられない奴は、いねえってことか。
軍艦学校で言われたことを思い出す。『生きて帰還する』という教訓。彼処で私は、しばしば他人の理解を得られなかった。今も、そうであるのか。
「わかったよ。何艦だ」
「五。さぁ駆けろ、集え。“時間はないぞ”。愚図々々していると鋳潰すぞ」
虫唾が走った。鋳潰すとは、艦娘に対する最高の侮辱だ。
「じゃあ早速行かせてもらうぜ。誰でもいいし、どんな艦隊でも構わんだろ。すぐ集めてみせるぜ」
提督は何も言わず立ち止まった。私もこれ以上言葉を重ねない。口を開けば、彼に対する罵詈雑言しか出てこなさそ
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