第百二十二話 蘭奢待その五
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至極落ち着いた顔で冷静に主に述べたのだった。
「ではそれがしの他にも」
「誰を連れて行くか」
「吉兵衛に助直に友閑殿を」
連れて行くのはこの三人だった。
「そうして宜しいでしょうか」
「もう一人必要ではないか」
信長は林の人選にはまずは満足した、その三人も今ここにいるがそれぞれ納得している顔で話を聞いていた。
しかしその三人だけではなかった、信長は林にそれを問うたのだ。
「そう思うがどうじゃ」
「もう一人ですか」
「うむ、誰かおらぬか」
思わせ振りな笑みで林に問う。
「それは」
「そうですな。ここは」
林は信長の言葉を受けて考える顔になった、そしてだった。
彼は顔を上げて信長にこう言った。
「では幕臣の方でありますが」
「誰じゃ」
「明智光秀殿を」
林はここで彼の名前を信長に話した。
「あの御仁を」
「今は都におるな、あの者は」
「都で合流しそのうえで」
共に朝廷にあたるというのだ。
「細川殿も頼りになると思いますが」
「ほう、あの者もか」
信長はあえて彼の名は出さなかった、林に言わせるつもりでそれは成功した。
「ではその顔触れに勘十郎も入れてか」
「帝にまでお話をします」
「そうじゃな。それではじゃ」
「はい、それでは」
話はこれで決まった。
林達が都に向かい幕臣である明智達とも合流しそのうえで朝廷との話をすることになった、蘭奢待の件はそうなった。
信長はおおよそのことを決めた、このことはすぐに天下に広まり多くの者はまさかと思いこう言う者が多かった。
「幾ら何でも無理だろうな」
「うむ、織田は確かに一の勢力だがまだ磐石ではないわ」
「それであれを見るとは無理だ」
「出来るものではない」
「東大寺も出さぬし朝廷もお許しにはなられぬ」
「この話は流れる」
「絶対にな」
こう見ていた、しかし。
北條氏康は小田原でその話を聞きこう家臣達に言った。
「織田信長、やるわ」
「拝領できますか」
「そうだというのですか」
「うむ、出来る」
蘭奢待を拝領出来るというのだ。
「間違いなくな」
「世の者の殆どが無理と見ていますが」
大道寺がこう言った。
「それは誤りですか」
「誤りじゃな、織田信長は甘く見てはならぬ」
「確かにうつけではないことは間違いないですな」
信長をうつけと見る者はもう天下にはいなかった、うつけが瞬く間に尾張を一つにし二十国、七百六十万石の大身にまでなれないからだ。
大道寺もそう見ている、だがその彼もこのことはこう言うのだった。
「お言葉ですがそれがしも」
「蘭奢待は拝領出来ぬというのじゃな」
「平清盛や源頼朝もできませんでした」
天下を手にした彼等でもだというのだ。
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