第百二十二話 蘭奢待その四
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「新五郎、今の政が終わり次第都に行け」
「都にでございますか」
「そうじゃ。都じゃ」
こう言うと林も他の者達もわかった、蘭奢待の話はその日のうちに織田家の主だった家臣達に伝わっていた、信長もそれを狙っていたのだ。
それで林もこう言うのだった。
「では蘭奢待の件で」
「勘十郎と共に朝廷を折り合いをつけてくれ」
「畏まりました」
「ことは大事じゃ」
信長は言う。
「帝にも関わることだからな」
「左様ですな、それでは」
「近衛殿や山科殿とのお話になるが」
「帝のお許しも得なければなりませんな」
「帝が駄目と仰れば止める」
このことはあくまで帝次第というのだ。
「わし一人だけで見ようとは思わぬ」
「ですが殿」
林の弟の林通具がここで主jに言ってきた。
「これまでの足利義満公にしても足利義政公にしましても」
「幕府が第一だったというのじゃな」
「左様ですが」
「それでどうなったのじゃ」
信長はその足利家の幕府のことを言った。
「義満公も善政公も」
「それは」
「幕府自体がああなったわ」
信長は足利義満の急死自体に妙なものを感じていた、それは決して表にあることに拠るものではなかったというのだ。
「そうなっては仕舞いじゃ」
「織田家がですか」
「だから無体はせぬ」
皇室に対してそれはしないというのだ。
「無論東大寺にもじゃ」
「では腰を低くされて」
「そのうえで行う、稲は実れば実るだけ頭を垂れるもの」
俗に言われていることを信長も言う。
「天下もまた然りじゃ」
「驕らぬというのですな」
「そうじゃ。どうもわしは驕りやすい様じゃしな」
このことは自分で感じていることだった。
「危ういことはせぬ」
「だから帝にもですな」
「大納言殿、いや関白殿からお許しを得てもまだじゃ」
「それでも動かぬと」
「帝からお許しを得てからじゃ」
「それで蘭奢待もまた」
「わしが見るだけではない、まずはじゃ」
帝が御覧になられそしてだというのだ。
「そういうことじゃ」
「後は民達もまた」
「だから切り取る」
そうするというのだ。
「そして一片を帝に献上し」
「もう一片は殿が」
「そうする」
信長はその考えを言う、
「そしてわしに御主達も見てじゃ」
「民達にも見せる」
「そうされますか」
「わし一人で見ても仕方がないわ」
欲を張らない信長ならではの言葉だった。
「だからじゃ。よいな」
「はい、わかりました」
通具もこれで納得した、そして彼の兄である林もまた。
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