第百二十二話 蘭奢待その二
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島はここでこうも言うのだった。
「それで殿は蘭奢待を御覧になられたいと思われますか」
「あの香木をか」
「はい、どうでしょうか」
「わし一人ではそうは思わぬ」
信長は島にはっきりと言った。
「香木も今のわしでは傍で香り立たせようと思えば幾らでも出来るからな」
「伽羅も沈香も」
「だからわし一人ではそこまでは思わぬ」
決してだというのだ。
「特にな」
「ですか」
「帝が仰るなら別だが」
そもそも蘭奢待は皇室の宝になる、東大寺が預かっているのだ。
「わしなら特にじゃ」
「左様ですか、帝次第ですか」
「しかし政を考えれば大きいのう」
信長はすぐにそこに考えを及ばさせた。
「実にな」
「はい、蘭奢待を開封したのはこれまで僅かです」
「藤原道長公に足利義満公に」
「足利義政公の御三方だけです」
平清盛や源頼朝もなかったことだ。
「それだけです」
「そうじゃな。しかし見るだけならじゃ」
それはどうかと、信長は微妙な顔になり語った。
「特によい」
「御覧になられぬと」
「茶器ならそれでもよい」
信長は今茶器をしきりに集めている、そうしてその集めた茶器を見てそのうえで楽しみともしているおのだ。
だがその蘭奢待はどうかというのだ。
「あれは違うからのう」
「ただの香木ではありませぬな」
島はまた言う。
「まさに天下の宝です」
「その通りじゃ。そうした宝をわし一人で見るなぞ言語道断じゃ」
人としての分は守る、信長が今大事にするのはそれだった。
「それ故にじゃ」
「蘭奢待は一人では御覧になられませんか」
「わしだけではなく御主達もや民や足軽達も見て」
そしてだった。
「帝も御覧になれられなければな」
「なりませぬか」
「そう考えておる」
その考えを今言うのだった。
「そうでなければ権勢も使うべきではないわ」
「では今回は」
「いや、まず朝廷にお伺いを立てる」
信長は島に乗ると答えた。
「ここはな」
「蘭奢待、御覧になられますか」
「そしてじゃ」
さらにだというのだ。
「見たいという足軽達も集め」
「大和に向かいですか」
「見に行く。しかし民にも見せたいが」
その天下の宝をだというのだ。
「どうして見せるべきかのう」
「全て出したままですとそこで失えば大変なことになりますな」
大谷は信長の傍に控えていたが早速言ってきた。
「それは」
「そうじゃな、あれだけの宝を失う訳にはいかぬ」
「少しだけ見るのはいいですが」
「常に出していてはよからぬ者が奪いに来るであろうな」
「若しそれで盗まれでもしたら織田家の名折れです」
その名声が地に落ちる、大谷が今懸念しているのはこのことだ。
「それはあってはなりませぬ故」
「わし
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