第百二十二話 蘭奢待その一
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第百二十二話 蘭奢待
信長は岐阜においてこの日も政と鍛錬、学問の合間に茶を飲んでいた。その時に共にいる筒井がこんなことを言ってきた。
「殿は東大寺に行かれたことはおありでしょうか」
「旅に出た時に近くを通ったがな」
その時のことを覚えている、それで筒井にこう答えたのだ。
「それきりじゃ」
「今東大寺の修復に銭も出していますが」
「当然のことじゃ。東大寺を失う訳にはいかぬ」
天下の名札中の名札、それで言うのだ。
「だからそれはじゃ」
「当然でございますな」
「他の者にも言っておる様にな。それに」
「それにとは」
「大仏じゃ」
東大寺の象徴でるそれもだというのだ。
「銭は幾らでも出す、だからじゃ」
「あの仏像もですか」
「そうじゃ。無論じゃ」
それはもう当然だというのだ。
「あの大仏もな」
「それは何よりです。どの者にとっても」
「あの仏像は聖武帝が天下の安泰を願って建立されたもの」
それがはじめである。
「それがないというのは天下にとってよくはない」
「だからこそですか」
「その通りじゃ。東大寺も大仏も蘇らせる」
そうするというのだ。
「このわしがな」
「東大寺もかなり焼けてしまいましたが」
筒井の言葉がここでこう変わった。
「宝は何とか残っています」
「東大寺もかなりの宝を持っておったな」
「歴史が深いので」
そして何よりも大きい、それならばなのだ。
「ですから」
「東大寺での戦は激しかったと聞いておる」
「相当なものでした」
筒井はその目で見ていたから言えた。
「あの東大寺が全て」
「源平以来のことであったな」
「その通りです。ですから」
「あ奴のことか」
「松永めはやはり」
「それは前から言っておろう、わしがよいと言っておる」
その命は決して絶たないというのだ。信長は彼の命を奪うどころか重用して今に至っているのだ。
「わかったな」
「左様ですか」
「そうじゃ。しかし東大寺はじゃ」
この寺は再建するというのだ。
「大仏もわしが銭を出す」
「かなりの出費になっていますが」
「よい、伊勢神宮もだが」
この社の修復にもかなりの銭を出している。
「こうした時にこそ銭は使うものじゃ」
「だからでございますか」
「よい、銭は出す」
東大寺にもだというのだ。
「必要ならば幾らでもな」
「有り難きお言葉」
元々大和の出である筒井にとってはまことに有り難い信長の行動だった、彼は信長に対して深々と頭を垂れた、そしてここで。
筒井と共にいた島が信長にこのことを話したのだった。
「して殿、その東大寺ですが」
「うむ、今度は何だ」
「宝のことです」
東大寺が持っている宝のことだ。
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