第五章
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第五章
「御気をつけ下さい」
「ええ。それじゃあ」
応えながら煙草を吸い続ける。しかしここで後ろの窓から出て来たのだった。
「スザンナ!」
「えっ!?」
ジルがいきなり窓から出て来て咄嗟に灰皿を自分の後ろに隠した。ジルはそれを見て彼女のところに飛んできたのであった。
「待て、今隠したものは何だ!」
「何でもないわ」
「何でもなくはあるか!見せなさい!」
「駄目よ、これは!」
何とかジルから隠そうとする。しかしそれは適わずその煙草を手に取られた。ところがその煙草は火を点けたままだったので彼の手を焼いてしまった。
「熱いっ、何なんだ!?」
「ジル、大丈夫なの!?」
スザンナは咄嗟にまだ自分の前にあった灰皿にその煙草を置いて夫の手を取る。だがここでその煙草も灰皿も彼に見られてしまったのだ。
「あれっ、灰皿?それに」
「あっ、これは」
スザンナは夫がその灰皿と煙草を見てしまったのに気付いてしまった、といった顔になった。
「これはその」
「煙草?何で煙草が」
「ええと。これは」
「スザンナ、君は煙草を吸わないんじゃなかったのかい?」
「これはね。実はね」
言いにくいことを何とか言おうとするスザンナだった。しかしここでこの場は黙っていたサンテが絶好のタイミングで口を開いたのであった。
「いえ、奥様は煙草を吸われます」
「サンテ、それは」
「吸うのかい」
「今までそれを隠しておられたのです」
このことも彼に話したのだった。
「実を申しますと」
「そうだったのか」
「御免なさい、あなた」
スザンナもここで遂に夫にそのことを告げるのだった。申し訳ない顔で。
「私。結婚する前から吸っていて」
「そうだったのか。浮気はしていなかったのか」
「はい、それは誓って言えます」
サンテが主の言葉を代弁した。
「奥様はそのような方ではありません」
「そうだね。疑って悪かったよ」
「いえ、悪いのは私だから」
スザンナもまた夫に対して謝った。
「もう煙草は吸わないから」
「いや、いいよ」
だがジルは彼女のその謝罪に対して優しい微笑を見せるのだった。
「それはね。それよりもスザンナ」
「どうしたの?」
「一本くれないかな」
こう妻に申し出るのだった。
「一本ね。いいかな」
「一本っていうと」
「だから煙草だよ」
それだというのである。
「煙草を一本くれないかな。どうかな」
「いいの?あなた煙草は」
「いいんだよ。スザンナが吸うのなら僕もね」
「そうなの。だからなの」
「そうだよ。だから一本くれないかな」
「わかったわ。それじゃあ」
懐からその煙草を一本取り出し一緒にマッチも差し出す。ジルはその受け取った煙草を咥えるとすぐに火を点けた。そのうえでス
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