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河童
終章
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てくれるまで、袖にし続けてやるんだから。お母さんなら来てもいいわ」
「そうか…伝えておく」
「ねぇ、紺野」
もう一度、窓から外を見下ろしてみた。…もう、いっちゃんの姿は見えなかった。さっきベッドの横で所在なげにしていた男よりも、ここから見下ろす小さい『いっちゃん』の方が、ずっとしっくりくるのに。これからは窓の外から見舞えって言おうかしら。
「私、背が伸びたのよ」
「まじか!?」
紺野の目が輝いた。書類をテキトーにベッドの脇に押しやって、身を乗り出した。
「初めてじゃないか、それこそ!」
あの事件から時間を止めていた私の体が、遅まきな成長を始めた証。紺野は私が恥ずかしくなるくらいに喜んでくれた。胸囲は、胸囲はどうなんだ!乳は!!スポーツブラ卒業か!!とドサクサにまぎれてセクハラ発言を繰り返す紺野の足を蹴って、もう一度窓の外に目をやった。桜の花が、ほころび始めている。この病室から桜の花が見下ろせることを、今年初めて知った。
「……私が退院することになっても」
いつしか、紺野が薄いコートを着込んで立ち上がっていた。
「戻りたくない」
紺野は少し笑って、もう一度椅子に座った。
「だったらうちに来い。あの時、言ったろ」

――逃げてこいって。

「…そうするわ」
でも、桜の花を見るまではここにいるつもり。

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