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河童
終章
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た。
そんなことになったら、政治家生命おしまいね。ざまぁみろ。
「最初、自分を脅すのか、このひとでなし、という趣旨のことを散々怒鳴られた。訛りがきつくて分からなかったが」
そうでしょうね。
「決め手になったのは、お前のお袋さんだ」
「……母さんが?」
いっちゃんとこの伯父さんと同じで、優しいけど存在感が薄くて、なに考えてるのかよく分からなかったあのひとが、何を?
「怒鳴り散らす親父さんを、いきなり殴ったんだ」
「………!!」
「…そんなことされるの、初めてだったんだろう。呆然としている親父さんの代わりに、お母さんがカウンセリングを受ける旨を受諾して書類に押印した」
「殴った…って、殴り返されなかったの」
「それでもいい、と思ったから殴ったんだろう」
それも紺野に言われたことだった。追い詰められる前に、周囲に目を凝らせばよかった。助けてくれる大人は、すぐそばにいた。私は……
「…お母さんは、お父さん側のひとだと思ってた」
「どうして」
「お父さんに逆らうの、見たことなかったから」
「思うんだけどさ」
書類に目を落としていた紺野が、ついと目を上げた。
「お前と会ったとき、普通の女の子だと思ったんだよな」
「…そう思われるように、演じてたもの」
「違う。カウンセラーに聞いたんだがな…」
なんか長い話になりそう。紺野の話は、意外と回りくどい。
「過干渉を受けてきた子供の自我ってのは、普通、未成熟なんだよ。何も自分で決めることはできず、友達や彼氏と楽しく遊んだり、部活動で汗を流したりといった、親に許可されている行動以外の行動全般に罪悪感を示すそうだ。でもお前は、親の目を盗んで色々やんちゃをしてたじゃないか。友達から巻き上げた罰金で白熊食いに行ったり、居候追いかけて桜島まで乗り込んだり」
「しつこいわね。いい加減忘れなさいよ」
「お前のそういう感性を育ててくれたのは、お袋さんじゃなかったか」
お母さんは大人しくて、争いごとが嫌いで、上品で…ちょっとお茶目なひとだった。
下品なカキ氷なんか食べることは許さない!というお父さんの目を盗んで、白熊を食べに連れて行ってくれたのはお母さんだった。お父さんには逆らわない。でも心まで支配されない。そういうやり方を私に教えたのは、あのひとだったかもしれない。

――なんで、信じなかったんだろう。私のためなら、お父さんに逆らってくれるかも知れないって。

「まぁ…親父さんのカウンセリングの経過は、普通…というか正直、思わしくないんだが、流迦ちゃんに会いたいという気持ちは芽生えてきている。もう何度も面会の申請をしてきているしな。…どうだ、親父さんの治療の一環として、協力してみないか」
「お断りよ」
だからイヤだって言ったじゃない。何度言わせるのよ。
「うーん…」
「手紙返し
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