第四章
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たけん、流迦がとぜんねか思いばしとるんじゃないかちぃ思ってな、いっき車とばして戻ったが。お土産、ず〜んばい買てきたがよ』
「わぁ、楽しみ!流迦、寝ないで待ってるね♪」
『わぁはははは、そげんなこつ言いよるち、もじょか子じゃ!』
「あっ、目玉焼きが焦げちゃう!じゃあ、切るね」
慌てた口調で即切ると、洗面所のドアに駆け寄り乱暴に開いた。
「ど、どうしたすごい形相だぞ」
うるさい、私の形相なんてどうでもいい。
「あっ、あと30分…30分で!」
お父さんが帰って来る、は聞かないでも分かったらしい。河童は小さく頷くと、そこらへんの私物を掻き集めて駆け出した。
「残りは捨てておいてくれ」
ちらっと洗面所をのぞくと、住職に貰ったとかいう褌が残っていた。こんなもん見つかったら家族会議ものだ。ちょっと抵抗を覚えたけど、服の下に押し込んで玄関を出た。
薄暗いガレージに散らばった工具の中央に置かれた、ぼろぼろの自転車。私が最初に見たのは、大破した自転車の残骸みたいなものだった。あの残骸は今、ぼろくて汚いけど、たしかに自転車としてそこに在った。…なんだか、とても昔の自転車みたい。
「いつのまに、直したの」
「昨日、一晩がかりで」
それで明け方に、神社で水浴びしてたんだ。
「っつっても、まだようやく組み立てたばかりなんだ。細かい仕上げをしないと」
「できるの、30分で」
「ぎりぎり漕げるくらいまでなら、なんとかいけるだろ」
河童は私のよく知らない工具をすっと手に取ると、自転車の傍らにしゃがみこんだ。同時に流れるように手を動かす。
「…ぼろい自転車」
「年季が入ってるからな」
「どのくらい?」
「さあ。50年以上は経ってるかもな」
話しながらも、手は止まることなく自転車の上を動く。無駄なく、正確に、流れるように。
「……結局、ライトがどうにもならなかったんだよな」
ドライバーを口にくわえてふがふがしながら、河童が1人ごちた。
「…………ライトなんて、なくても走れるじゃない」
「このナリにこの自転車で無灯火…職質して下さいって言って走ってるようなもんだ」
河童は少し視線を彷徨わせて、壁にかかっていた懐中電灯を取った。
「お、防水仕様。これでいーや♪もらうぞ」
「ちょっと…」
「大丈夫、バレない。埃かぶってんじゃん。きっと随分使ってないんだぜ」
そう言って、懐中電灯を前カゴの下あたりにワイヤーでくくりつけた。…変な自転車。
「…なんで、こんな自転車で旅しようと思ったの」
河童は苦笑いしながらも手を止めず、呟くように言った。
「好きで旅に出たわけじゃない。…選ばれたんだよ」
「選ばれた?」
「呪われたランドナーに、な」
流れるような手つきで取り付けられたペダルは、左右違うパーツだった。よく見ると他にも
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