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河童
第四章
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貴呼ばわりされるし…」
「…セクハラは自業自得な気がする」
むしろ妹さんがかわいそう。…でも。
「心配、するんだね。あなたみたいなのでも」
「…そりゃな、俺は一番上だし。とくに妹とは随分歳が離れているから」
「ふぅん…」
―― 一瞬。一瞬だけ、私のことを心配する河童と、うざいうざいって逃げ回る私を想像した。…やっぱり、分からないなぁ。布団たたきをぶらぶらさせながら、壁によりかかって耳を傾けた。
「心配もするし、逆に心配もかける。今回の自転車旅行だって…」
言葉が切れた。なにか思い出しているみたい。…河童は『…そうか』と小さく呟くと、再び話し始めた。
「親と妹は反対した。でも弟たちが面白がって賛成して、結局いろんなことがうやむやになった。…で、うやむやのままテキトーに出発することになった」
「兄弟が多いと、いろいろテキトーになるのね」
「む…そういう部分もあるな。親は全員の動向に気が回らないし、誤解を恐れずに言えば…4人もいるんだから1人くらいダメな子でも、という気安さはあるかもな」
……いいなぁ。
一粒種は、たった1つの芽を枯らさないように、大事に、神経質に管理される。
おやつは常に独り占めだけど、大好きなおかずを奪われたことなんてないけど…。
「難しく考えたことがないんで、どう言えばいいのか…兄弟ってのも、要は人間関係なんだよな。お互いが影響しあうんだ。近い目線で。弟たちが面白がったせいで自転車旅行が何となく許可されたり、妹の主張で部屋のカーテンの模様が決まったり。その影響には、親も巻き込まれるんだ。…だから影響を受ける方向も、与える方向も、一方的じゃいられない。一方的に言い聞かせようとしても、どこから横槍がはいるか分からないからな」
……全然、想像がつかない。それくらい、私の世界は全てが一方的に流れていて……
「…なぁ」
「なに」
「お前の周りに、横槍をいれてくれそうな大人はいるか」
―――どういうこと?
「先生でも、親戚のおっちゃんでも、爺さんや婆さんでもいい。…親父さんの一方的な影響力に、水をさしてやれそうな大人だ」

そんな…大人。

一瞬だけ、いっちゃんのお父さんが頭をよぎった。親戚中が面白がって私といっちゃんを夫婦扱いする中で1人だけ、いつも私の様子を伺うように押し黙っている、あのひと。
…でも、すぐに掻き消した。
気付いていることと、横槍をいれてくれることは違う。あんなに繊細で、穏やかで、争いごとが苦手そうなあのひとが…私のために、お父さんに意見してくれるなんて思えない。
それに私がやろうとしてることは、いっちゃんを傷つけること。その手伝いをさせようなんて…。
「……いないわ」
廊下が、水が満ちたみたいに静かになった。じーわ、じーわ、と早起きな蝉の声だけが響いている。…河童は、まだ出
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