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河童
第三章
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ると怖いのよ。地の果てまで追い詰めてやるわ!」
おーほっほっほと高らかに笑うそぶりで胸をそらす。2人は『くわばらくわばら』と呟きながら拝んで離れるマネをした。
「さぁ、桜島で河童をボコるわよ!」

――そして私たちは今、桜島行きフェリーの甲板で潮風をあびている。

「片道150円…あいかわらず安いわ」
髪を風になびかせて、船首をにらむ。あとで髪がかぴかぴになるのは分かっているのに、なぜか甲板に立つのがやめられない。お父さんが一緒だったら、一瞬たりとも潮風になんて当たらせてもらえないんだけど…。
「安いったって往復で300円じゃない…ふふ、もう何がしたいんだか分からないわね」
沙耶が仁王立ちで桜島を望みながら、自嘲気味に笑った。琴美は『髪がゴワゴワになるからー』と言って、さっさと船室に入ってしまった。
「3人分の運賃が900円…そんだけあればあの自転車、粗大ゴミに出せるんじゃない」
「あいつの知らないところで、私がひっそり損するのがイヤなの。私達の運賃と白熊の代金くらい、あいつからせしめてやるんだから」
「白熊代まで…流迦、なかなかの悪党ね…」
どぅん…とくぐもった音を立てて、桜島が小さく噴煙をあげた。沙耶が桜島を睨みつけたまま、おさげをなびかせて口元に細く笑みを浮かべた。
「…ないとは思うけど、もしも偶然運悪く火山弾やら落石やらで全員死んだら、家族にどう思われるのかしらね」
「こんな夏真っ盛りにアホ面さげて、桜島大根を掘りに来たと思われるわね、うちの父さんの証言で。…薩摩おごじょって感じの死に方ね」
「死ねないっ…間違っても、そんな誤解残したまま死ねないわっ…」
「あんたか琴美が火山弾で死んで、私が生き残ったらもっと悲惨よ…私、テレビに顔出して泣きながら『桜島大根を…大根を掘りにっ…』とか言わないといけないじゃない…」
「『河童をっ…河童をボコりにっ…』と言うよりよっぽど真っ当なんじゃない?」
「そうね…桜島大根は実在するんだから」
…考えてみれば本来の目的だって充分イタい。でも止まらないんだから仕方ない。理由なんてないもの。とにかく会ってボコらないとおさまらないんだから。
「そろそろだよー…うっわー、2人ともごわごわー」
琴美がしつこく毛先を気にしながら船室から出てきた。つやつやの巻き髪を自慢げに揺らして…どっちが『女子』として正解か、一目瞭然な感じ。すっかりカピカピのパリッパリになった髪を掻き上げ、私たち2人は一斉に叫んだ。
「出てきたか裏切り者っ!」




「ここ入るのー?サンダル汚れちゃうんだけどー」
バスを降りて、舗装されていないあぜ道に降りる。琴美が白いサンダルをしきりに気にしながら、そろそろと歩く。横を通り過ぎた他校の男子が、琴美をちらっと盗み見てた。

琴美は、きれいになったな…
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