第二章
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あふれ出した。彼は、黙って聞いている。たまに、相槌のような唸り声を出しながら。
どうしたんだろう。…こんなこと、沙耶たちにしか言ったことないのに。
「…お前は、どうしたいんだ?このまま、親父さんの言うとおりに生きていくのか」
私の言葉が尽きるのを待っていたように、彼が問いかけてきた。衣擦れの音は、もうやんでいる。
「高校卒業まではガマンするんです。卒業したら全部かなぐり捨てて、遠くに行く。東京…じゃなくても構わない。とにかく、ここじゃないどこかに」
「……ひどいな、お前」
がん、と頭を殴られたような気がした。…ひどい?どっちが!?私の気持ちを踏みにじり続けたあのひとが、じゃなくて私が!?
「…なんで…?」
やっとの思いで、その一言だけ絞り出した。
「言いたいこと言わないで、どんな無茶振りされても従い続けといて、突然手の平返して『あんたなんか親じゃない!』って手の届かない所に逃げちゃうのかよ」
「悪い!?そうされても仕方ないことを、あのひとはしてきたのよ!!」
「んー…そう、なんだが」
かしかし…と頭をかくような音がした。
「…お前の親父さんてこう…多分、多分なんだけどさ、周りの感情に無頓着なひとなんじゃないか。力技で場の空気を作って我を張って、周りが何も言わないからって、それが多数派の意見と思い込むようなところ、あるだろ」
「………」
「お前が何も言わずに従ってきたから、自分が作り上げた『理想の娘像』に、お前も満足してると思ってるんだろうよ」
「…最悪じゃない。私のやり方以外に、うまくやれる方法があるの?」
「うまいやり方かどうかじゃない!」
…肩が震えた。…なによ、河童のくせに、なんで私を叱るような声、出すのよ…
「しょっちゅうぶつかり合うことになるだろうな。親父さんは毎日不機嫌かもしれない。悪くすりゃ、顔が曲がるほど殴られるかもしれない」
「………」
「でも伝わるかもしれないだろ。お前がどうしたいのか。…少なくともギリギリまで親をたばかって、最後に裏切ってハイさようならなんて結末よりよっぽどマシだ」
――あんたに、なにが分かるのよ。
「…気ままなよそ者に、なにが分かるのよ!!」
乱暴にドアを開けて押し入った。濡れ髪のまま浴室のドアにもたれていた河童は、ぎょっとしたみたいに身を起こした。
「褒めてもらえると思ったのに…盤面ひっくり返されて怒鳴られる気持ちがわかる!?当然みたいに政略結婚の道具にされる気持ちは!?」
「お、おいおい、ちょっと…」
あとからあとから、バラバラの言葉が出てきた。それを止めることが出来ずに、目の前のひとに叩きつけ続けた。一つ残らず、全部。
「初めての将棋っ…うまくできて…褒めてくれるって…さっき言ってくれたみたいに、すごいって…天才って言ってもらえるって!!
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