第二章
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ろう。えーっと、一番長い陰毛はど・れ・か・な」
ガツン!と布団たたきの柄でドアを殴ると、ひえっとか、おーこわ、とかそんな声がシャワーの音に紛れて聞こえてきた。
…しばらくして、シャワーの音が止んだ。
「…なぁ、流迦ちゃん」
「…なんですか」
またセクハラ発言だったら、もう口利いてやんない。
「余計なお世話かもしれないが…あれ、嘘だろ」
「………なんの話ですか」
「手芸部の話」
声のトーンが、少し変わった。
「…私が、手芸部なのは本当です」
別に、好きで入ったわけじゃないけど。
「ふぅん…親父さんと話すときって、いつもあんな感じなのか」
「悪いですか」
…返事が、ない。何でなにも言わないの。余計なことはいくらでも言うくせに。なんで、私の嘘が気になるの。いま、ドアの向こうでどんな顔してるの。
何一つ自分からは聞けなくて、ただ、衣擦れの音に耳を済ませるだけだった。
「どう言えばいいのか分からないけどさ」
ようやく、彼が喋りだした。…さっきよりも一段低いトーンで。
「手芸のほかに、やりたい部活ってなかったのか」
「――将棋」
ぽろり、と口からこぼれた言葉。
自分でも、意識してなかったのに。やりたいことがないから、親が望みそうな部に入った、さっきまで、そう思っていた。
「へぇ、いいじゃないか。なんで、将棋部に入らなかった?」
「――お父さんに、禁止されてるから」
もう忘れたと思ってた遠い記憶が、いらつきと一緒に浮かび上がってきた。
お父さんが、軽い気持ちで私の前に広げた将棋盤。
『流迦―、将棋教えてやるばい、相手せんね』
――そう言ったのは、お父さんのほうだった。
駒の動き方を教わって、並べてもらって、お父さんが先手で始めた。
お父さんの駒の動きを目で追った。次の手も、その次の手も予測できた。私はそれが面白くて夢中になった。飛車を取れ、王将を追い詰めろ!…さあ、次の一手で積み…
その瞬間、将棋版が弾けとんだ。
『うなー!!』
青天の霹靂。何が起こったのか分からなくて、目をぱちくりしている私を血走った目で見下ろし、お父さんはなおも怒鳴った。
『わっぜぇ、なますかんおなごじゃ!!おなごのくせに、男の面子ばつぶしよってからに!!』
『で、でもお父さん…』
『うぜらしっ!ぎをゆなっ!お前は将棋ばせんでよか!!』
この事があってから、うちでは全てのゲームが禁止された。いっちゃんの家に遊びに行った時だけ、私たちしかいない部屋で、いっちゃん相手にゲームが出来る。それが、ひそかな楽しみだった。
お父さんは、女の子が男をしのぐことが、お腹の底から嫌い。
だからこの家にいるかぎり、私はお父さんの気に入ることしか、やっちゃいけない。
でも、でも私は…
――堰を切ったように、言葉が
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