第二章
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が!』と、黒目がちの瞳で見上げてくると、実はちょっと幸せな気分にさえなる。
でもそれは小さな女の子がお父さんに言う『おおきくなったらパパとけっこんする!』と同じ、いつかはさりげなく消えていく幸せのはずだった。
父さんが、余計なことを思いつかなかったら。
姶良の本家にツテが出来れば、今後の選挙が有利になる…そう考えたんだと思う。お父さんは、まだ分別のつかないいっちゃんに、会うたびに私を嫁にするか、嫁にするかと吹き込みはじめた。…最近、いっちゃんは期待に満ちた瞳で私を見上げる。
だから、胸が痛む。
「手芸?そんなおしとやかな集いにゃ見えなかったが」
背中から突然、男の声がした。
「なっ……!」
いつの間に入ったのか、河童が私の真後ろで、棒アイスをしゃぶっていた。
「玄関開いてたぞ」
「だからって…!!」
「ガレージ暑いんだもん。お手伝いさんとやらが来るのは昼過ぎだろ?」
そういって河童は勝手に台所に入り込むと、止める暇も与えず、勝手に麦茶を取り出してコップに注いで飲み始めた。
「なにしてるんですかっ!!」
「あ…わり、つい実家感覚で」
まったく悪びれた様子もなく、おかわりまで注いでいる。ここまで図々しいと、怒る気力が失せる。
「…図々しすぎていっそ斬新ね」
「斬新だろ」
にやりと笑って、コップをもう一つ取り出して麦茶をなみなみと注ぐ。で、私のほうに差し出した。
「要りません」
「汗いっぱいかいたろ。脱水症になるぞ」
「自分で注ぐから要らないって言ったんです!」
むかついたけど、確かに喉は渇いてた。コップをひったくって、わざと不味そうに飲む。
「おーこわいこわい。…あ、またシャワー借りるわ」
河童はテーブルにコップを置くと、当然のように洗面所に消えた。
「ちょ…ちょっと!」
「お構いなくー、タオルの場所は分かるから」
そういうことじゃなくて…!!と言いかけて飲み込む。妖怪に軒先を貸せば、母屋を取られる。なりゆきとはいえ、家に河童を引き入れた私が悪いんだ。きっと。
「で、君はまたそこにいるのか」
洗面所から、くぐもった声が聞こえる。私は布団たたきを持ったまま、洗面所のドアにもたれていた。
「これ以上、家の中で好き勝手されたらたまらないですから」
洗面所に私の下着が残ってないことはチェック済み。排水溝までぴっかぴかに掃除してやった。突然何か言われても、鼻で笑い飛ばしてやるんだから。
「昨日、浴室散らかしっぱなしでした」
「あれはお前が乱入したから…」
「私が散らかしたと思われるでしょ。今度片付けしないで出たら、もう貸しませんから」
「ほーう、じゃ時間差で発見されそうなところに、ありえないほど長い陰毛仕込んでおいて親父に『流迦…お前…お前っ…!』とか思われるようにしてや
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