第二章
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「流迦ちゃん、ちょっと来てみ」
なによ、面倒くさい。私はわざとゆっくり体を起こして、のろのろと近づいた。
「ほらコレ!見たことあるか!?」
目を輝かせて私を見上げる河童の傍らに、雨に濡れてたわたわになった雑誌が転がっている。珍妙な下着をつけた女性の表紙に、活き活きとした赤い文字で『週刊エロトピア』。
……どっと疲れがわいた。
「…寡聞にて存じ上げません。いい加減にしないとセクハラで警察呼びますよ」
「馬鹿、そっちじゃない!」
…その割には、なんか成人雑誌を選り分けたような形跡があるんだけど。
「これだ、これこれ。…まだあったんだなぁ」
河童は、くず鉄の山からカラフルな箱をつかみ出した。それは六面の全部が、マス目で仕切られている、おかしな箱。彼が箱をぐっとひねると、一番上の列がくるっと回った。
「ルービックキューブだ」
「るーびっく…」
懐かしさを噛み締めるように、ぐっと頷いて再び掌の箱をぐるりと回した。
「このキューブ、色がバラバラだろ。これをこうして…えーと、こうして…」
河童は額に汗の玉を浮かべて箱をこねくり回しはじめた。
「…あれ?腕が落ちたな…昔は全校一のスピードを誇った俺様が…」
よく見ると、色は6色。河童の手の動きを見ていると、どうも面の色を揃えたがっているみたい。…ちがう、そうじゃない。そこを動かすと、こっちが揃わなくなる…ちがう。ここを動かさないと絶対に揃わない…
「貸して」
まどろっこしい。河童からルービックキューブをひったくると、頭の中で描いたとおりに手を動かした。カキカキカキと軽快な音をたてて、キューブは高速で回る。…心地いい予定調和が、掌の上で展開される。私がタクトを振って、キューブは私の思い通りに模様を替える…
「…すげえ…」
河童の呟きに、ふと我に返った。掌に6面全ての色が揃ったキューブが収まっていた。
「あっ…」
つい、むきになった…
思わず唇を噛みしめた。…私は、また…
「すげぇな!お前、初めてだろ!?」
キューブごと手を握られて、はっとして彼を見上げた。思ってたより人懐こい瞳が、一点の曇りもなく、私を見返してきた。…咄嗟に目を逸らした。
「…なんですか」
「お前天才だな!…こういうのって、どうなんだ?一瞬で頭の中でシミュレーションできるのか?」
…言葉が出なかった。
びっくりしたのもあるけど、正直、自分でもどう表現していいのか分からなかったから。…それぞれのパーツの『道筋』が全部見えた。私はそれに沿って手を動かしただけ。
恐る恐る、もう一度目を上げてみた。
河童は好奇心だけをたっぷり湛えた瞳で、私とキューブを見比べている。
…それだけなんだけど、ひどくほっとした。胸の中で、何かがするっとほどけたかんじ。だから…
「まどろっこしいんですよ、へ
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