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河童
第二章
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乱暴に窓をあける。こんな不愉快な気持ちなのに、朝の空気は頬に冷たくて気持ちいい。
「…なんのつもりですか!」
眠いのとスポーツブラの恨みがあいまって、思わず声を荒げた。
「ちょっと来てくれ、手伝って欲しいんだよ」
「後にしてください…いま何時だと思ってるんですか」
「昼から大雨だろ?雨が降る前にやっておきたいんだよ。…1人より、2人でやったほうが絶対早く済むじゃん」
…いら。
「知ったこっちゃありません」
「早く済めば、それだけ早く出発できるんだぞ。…それとも流迦ちゃんはステキなお兄ちゃんに、一日でも長くここにいてほしいのかい?」
「…手伝います」
奴のペースに乗せられたんじゃない。言い合いが面倒になっただけなんだから。




鉄くずの山を掻き分け、こめかみを、頬を伝う汗をぬぐう。痛いほど耳朶を打つ、蝉の斉唱。勢いを増してきた太陽が、ちりちりと肌をあぶり始めた。…どこからか、ラジオ体操の歌が聞こえる。あたーらしーいー、あーさがきたー…

―――あの河童め。

門を出るそぶりを見せたあたりで、引き返せばよかった。
村はずれの『廃棄自転車置き場』で足を止めたその瞬間、こいつを置いて逃げ帰ればよかった。肝心なところで勘がはたらかない自分に腹が立つ。

「これと同じ型のブレーキがついたチャリを見つけてくれ」
一時間前、ひしゃげたブレーキを見せられ、廃棄自転車の山を顎で示された。
「……え?」
「こいつはどうしても直らないんだよ。スペアも使い切った」
「買えばいいでしょ。自転車屋の場所が知りたければ、タウンページくらい貸します」
調べてやんない。こいつのための労力が惜しい。
「金がない」
「……廃棄自転車がなかったら、どうする気だったんですか」
「駅前あたりでバラして盗む」
……最低。

「山には登るなよー、ケガするからなー」
…だれがあんたのブレーキの為に危ない橋を渡るか。腹いせに手近な山を蹴りつけてやった。自転車に紛れて、鍋のフタとか雑誌とかポリタンクとかが顔を出す。廃棄自転車に紛れて、生活ゴミも違法に捨てられてるみたい。
あぁもう臭い、暑い、いまいましい。こんな変な形のブレーキ、どこにも見つからないし。
「お前、いまその辺蹴ったろ。崩れるからやめとけよ」
「いちいち五月蝿いです」
「そうむくれるなよー。…途中にグミの実がなってたな。済んだら食おうぜ」
「済んだらさっさと帰って朝ごはん食べます。一人で食べてください」
へーいへい、という声が聞こえて、再びじゃりじゃりとくず鉄をまさぐる音が聞こえ始めた。私も一応、音だけさせておく。真剣になんて探してやんない。
「おぉ、これは!」
山の裏側から声がした。
「見つかったんですか?」
内心ほっとしたけど、わざとぶっきらぼうな声を出す。
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