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河童
第二章
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ツブラを言い当てられたとは言えず、口をつぐんだ。肩が怒りでわなわな震える。
「とっとにかく気が変わったから!もうこんな奴、ガレージにだって置いてやらない!!」
「まーまー、流迦さん、落ち着いて落ち着いて」
「そうだよー、麦茶でも飲んでー」
沙耶と琴美がなだめるようなフリで、ヘッドロックで私をドアの外に引きずり出した。胸がさりげなく頬にあたる。…ふん、私はちょっと遅れてるだけなんだから。
「…何があったか知らないけど、上京の誓いを忘れたわけじゃないだろうね」
沙耶がドスの聞いた声で囁く。首を絞める力がちょっと強まる。いたいいたい。
「今のうちに東京にツテをこしらえておくのも、立派な上京計画だよ〜?」
「それにさ、それに」
琴美が浮かれた声で囁いた。
「…あのひと、よく見ると結構かっこよくない?」
「だよね!?琴美も思った!?」
「実家は東京だし、ちょっと変わり者っぽいところをさっぴいても、全然アリだよね」
ナシだ。あんな変態。絶対ナシ。
「とにかく!…流迦、待望の海外拠点を潰すことはまかりならん!」
「………海外って…まぁ、広い意味では海外だけど……」
とん、とん、と二階に上がってくる足音が聞こえた。足音はわざとらしく私の部屋の前でとまる。しばらくすると、ドアの隙間から河童がじっとりと覗いているのが見えた。
「――姫のお怒りは解けましたかな?」
「あー平気平気!この子なら、もう怒ってないですよー、ね!」
琴美は1オクターブ高い声で歌うように言うと、私の背中をつつきながら同意をうながす。…こんな変態河童のどこがいいのか。
「…もういいから、さっさとガレージに帰ってください」
「お、いいの?やりぃ!」
奴は無遠慮な小学生みたいに笑うと、さくっと踵を返して階段を駆け下りた…と思ったら、少し引き返して、もう一度部屋を覗き込んで、大人びた口調で言った。
「…さっきは、ごめんな」
「……う」
「私たち、手伝いますー♪」
どたどたと階段を駆け下りていく3人の足音を聞きながら、こわばった顔の筋肉を、ゆっくり、ゆっくりとほぐしていく。

―――急に謝られて、びっくりしただけなんだから。

火照った頬を麦茶で冷やして、窓からガレージを見下ろす。…今日は散々だ。白熊は食べ損ねるし、ガレージに河童は住み着くし。…3人が、玄関から走り出してくる。もつれあって笑いながら、大騒ぎで。
私があんなふうに笑えなくなったのは、いつからだったかな…。




かつん、かつんと、硬いものがガラスにぶつかる音で目が覚めた。
天井近くの壁時計は、午前5時を指している。まだ蝉も鳴いていない早朝…窓ガラスが振動するたびに聞こえる。かつん、かつん。
「…あいつ!」
いらっとした。ガレージを見下ろすと案の定、河童が手を振っていた。少し
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