第一章
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黒く日焼けした肌とみすぼらしい身なりのせいで、ぱっと見妖怪っぽいけど、瞳はむしろ深くて、理知的な感じがする。
「こんな片田舎に、宿なんてないです。市内に出て探したらどうですか?では」
…でも今優先すべきは白熊!宿無し河童には気の毒だけど、あなたとの関わりはここまでよ。あー暑い。白熊、白熊。
「そんな金があるように見えるか」
「…宿探してるって言ったくせに」
「すまん、語弊があった。…ロハで泊めてくれる民家を探している」
「こんな怪しい風体のひとを泊めてくれる酔狂なおうちはありません。何かあっても交番が遠い、鳥も通わぬ片田舎ですから」
上半身裸に蓬髪をなびかせ、下はぼろぼろのバミューダ。背中には車輪みたいなのを二つ背負っている。バレー部の先輩は、これを甲羅と間違えたんだと思う。そんな風体の男が、あからさまにそこの畑でもいできたきゅうりを齧りながら、女子中学生にセクハラ発言…私が警官だったら職質なしで牢屋に放り込む。
「…意外とはっきり言うなぁ、お嬢ちゃん」
「どうも。行こ、みんな」
2人を促して、用水路を背にする。2人は何か言いたげに、何度も振り返る。背後で、河童の大きなため息が聞こえた。
「はぁ…南のひとは冷たいな。新宿からやっとの思いで辿り着いたというのに」
―――新宿?
ぐび、と喉が鳴った。2人の足も、ぴたりと止まった。
きっとみんな、同じことを考えている。
―――新宿って、あの新宿…?
「…アルタ前とか、コマ劇場とかの、あの新宿!?」
沙耶が、ばっと振り返った。
「え…俺の実家は下落合だけど…まぁ、そのへん」
2人の瞳に、ぎらりと炎が点った。河童の彼は、意外な食いつきっぷりにちょっと戸惑ったようで、もごもごと口に何かを含んでいるみたいな口調で答えた。
「ね、ねえ流迦。このまま放り出しちゃうの、ちょっと可哀想じゃない?」
――沙耶が東京者に寝返った!!
「そうだよ、そうだよ!白熊なんていっでん食わるっとよ!!」
――琴美が白熊延期の口実を見つけた!!…でも罰金追加。
東京の情報は気になるけど…でもさっき決めたんだもん、今日は絶っっっ対に白熊が食べたいの!
「でもどうするの?うち、泊まりとかムリだよ」
「…うちも、だめかも」
「んー…引き受けてくれそうなひとの心当たり、ないかなぁ…」
私もちょっと沈痛な顔を作って頷く。
「あ、私、心当たりある。期間限定だけど」
――なに!?
沙耶がぽん、と私の肩に手を置いた。
「流〜迦」
「なによ。ダメっていったじゃん。うちのお父さん、そういうのうるさいんだから。知ってるでしょ」
「だ・か・ら、期間限定♪」
「……う」
――話すんじゃなかったなぁ。
うちの両親は、先日から選挙準備だとかで、福岡のほうに車で出張している。
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